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● Report No044 / 05月25

文房四宝とハイテク

昔の絵画、特に墨絵の世界ではその道具とされる文房(具)は四宝と言って、墨、筆、紙(絹布)硯を大切にしました。巨匠たちはこれを駆使して、にじみやぼかしを多様しつつ、空気や光を書き、かすれやたまりを操りながら黒のみで彩どっていきました。 これを現代の先端技術と比べてみると、勿論書き手は芸術家とCAD型プリンタの差はあれど、道具の対比で眺めると面白い。

- 墨には インク、それには粒子(固体)もあれば蒸着系(気体)もあり
- 筆には インクジェット、マスキング、マイクロディスペンサー、レーザーもあり
- 紙には シリコンウェハー、ポリマーフィルム、金属箔など多様

では、硯には何が相当するでしょうか。(どうぞ、バックナンバーをご覧下さい)

 

江戸時代の手工業・工芸品は技術王国日本の礎

江戸時代発展した加工プロセスが今日の日本の技術のルーツと言えそうです。

    ・金彫 − 刀の鐔の加工で鏨彫り・象嵌などの飾り付け技術を主体とする刀装加工技術は精密金型金属加工へ。
    ・漆塗り − 蒔絵は螺鈿(らでん)と共に加飾の分野へ。
    ・和時計 − 江戸中期に長い紐のついたおもりからゼンマイ(発條)にかわることに代表する機械の自動装置への知識の高まりと器械(からくり)細工の考案が増える。これは精密組立技術へと。
    ・角細工 − 江戸中期水牛の角の輸入による笄、根付、緒締加工。江戸後期、象牙・べっこう加工による櫛、簪等々。

     武士、庶民に広く浸透している工芸品・日用品が自然の形で技術が身近な存在にしていたことは大いなる幸いでありました。

 

● Report No043 / 5月18

本末転倒

  「人は地球の上に乗っている」と「地球は足の下にある」はその捉え方に天地の開きがあります。技術発想を興す時通ずるところがありましょう。例えば、
・ 航空機という物は、まず翼があり、それに胴体部がついた物
・ キャビン(客室)が先ずありき、動力装置はその後付ける乗用車
・ 学校は人を入れるためでなく、送り出すためにある・・・と。

 このスタイルでハイテク分野に臨んだものが、
・ 先ずメッキ層あり、その上にプラスチック成形する
 → In-Mold-Plating(米BCL)
・ 先ずモールド品があり、それをマスターとしたモールド型(独LIGA)
・ 光硬化性レジン中に先ずセルフアライメント型導波路を形成
 グラッド部は自己形成(豊田・中研、他)。

 さて、形成SAM(Self-Assembly Monolayers)膜の転写は、この発想で行けば可能でしょうか?
 

“硬化時の収縮を低く抑える”への提案

 今や、光硬化性レジンは広く利用されていますが、精密さを要求される部位においては、硬化(重合)時の体積収縮が大きな問題となっていまして、接着や薄膜形成時に顕著に影響が出てしまいます。従来までは、これに対して無機質の充填剤を配合したり、反応性可塑剤や希にはオルソカーボネート単量体を配合したりしていました。 これらのように成分的には配合手法ではなく、硬化プロセスでの工夫で改善出来るかもと下記アイデアはいかがでしょうか。

 すなわち、 「硬化時の光照射に際して、千鳥模様の光マスクを被せて、硬化後マスクを外して全面照射する2ステップ硬化法。尚、千鳥セグメントは可能な限り微細とする」と。千鳥の変わりに水玉模様は理論(理屈?)的には駄目と思われますがいかがでしょう。

 

● Report No042 / 05月11

文房四宝のうち「紙」

 水墨画で用いられる宣紙は中国安徴省の単宣が代表的で日本では画仙紙が知られています。モノクロームの水彩の世界では、一見暗くて陰鬱な世界と映りますが、色彩豊かな絵よりも瞑想的・幻想的な印象を与えるのも、にじみ、ぼかし、かすれ、たまりの表情が神秘的とも思えるからなのでしょうか。西洋画とは大きく異なります。使われる紙も漉いてから数年経った方が良いらしく、パサパサ感がサワサワ感となり、これは二番風呂のほうが肌に軟らかいのに似ている、と。不思議にも正倉院の紙は漉きたてと思われる位とのことです。保管の具合のためか、それとも現代人には判らないノウハウで漉いたのか、古代の技術は奥深い。
 マルチノズルの束なる筆が一瞬にして多量のインクを放出し、にじみ、ぼかし、かすれ、ところによれば溜まりを作る複合処理は、現代のディスペンサーには無理ではないでしょうか。筆はアナログ型のハイテク極地技術かもしれないですね。

ナノ・カーボンのパターニングへの提案

 ナノテク研究が花盛りの中、外からこんなアイデアを頂きました。 カーボンナノチューブのナノパターニングを得る方法として、
(1) パターン原型を用意します。例えば、EB加工(外注可)が挙げられます。
(2) PDMSによるマイクロコンタクトプリント(μCP)転号型スタンプを得て、
(3) 予め用意されたナノ金(銀)コロイド粒子ペースト(φ10ナノ以下)
   PDMSスタンプにて基板に転号し(20〜30ナノ線巾可)、
(4) チャンバー内にてアセチレンガスのCVD重合による
   多層ナノチューブカーボンの パターンを得る。
  また別に、ナノ金コロイドペーストを全面コートした基盤にμCPによって有オキシリケートゾルゲルインクをレジストとするプロセスで上記(3)を得る方法も考えられます。 得られたパターンは電子ディスプレイ、異方性電機などの可能性があります。ローコストが魅力なのでしょうか。もし既知のプロセスでありましたらお教え下さい。

 

● Report No041 / 0427

文房四宝のうち「筆」

 そのその最たるものは中国で野ウサギから毛一本/匹採って一筆を仕上げる兎毛筆だそうだ。羊の胸毛で作った応蘭蕊(ランズイ)も有名。 日本では平安時代好んで鹿毛が使われ、かの空海は狸毛だったとか。その他、イタチ、馬などの動物も多いし、竹、木、草などの植物も多い。筆の良否判断は下の四要素から成ると言う。
(1)尖(せん)−穂先のとがり具合、毛の数多い程よい。 
(2)斉(せい)−穂先を押し広げた時、毛先の先端が一直線に揃っていること。 
(3)円(えん)−穂に墨を含ませて、穂先、のど、腹、腰がうまく曲がったりねじれたりするか。 
(4)健(けん)−全体が程良い弾力を持っているか。
 さて、尖(せん…とがり)を現代ハイテクに当てはめてみると
・開口径200nmのテーパー型光プローグによる量子ドット分光や分子検出
・原子、分子の整列を見る原子力間顕微鏡用カンチレバー
・10n以下の円錐状頂角をもつオプトード(光検出型化学センサー)などなど。
  現代ハイテクではもっぱら尖が重視されているが、斉、円、健もやがて必要とされる日が来るとしたら一体どんなモジュールなのでしょうね!

文房四宝のうち「硯」

   硯とは墨をする道具、石材製。墨水を溜める海部があり、墨をする鋒鋩(ほうぼう)と言う。ミクロの凹凸がある。丘もある。硯は砥石の一種で、墨の房を丘で擦るのだ。その擦り方で色は変幻し、水によって冴え方が変わると言う。砥石の女王は中国松花江の緑石硯で、石肌模様が透明だからと言われている。王様は油煙墨に良い紫色の端渓、松煙墨に良い歙洲とか。日本では赤間、雨畑の石が良いと言われる。 徳川家康は本阿弥光悦から「初には京の水が良い」と言われ早馬で取り寄せたくらい、水も大切とか。それを青銅の水器に溜めて、銀のスプーンで硯の丘に垂らす有様は茶道の如く書道である。硯が担うハイテクプロセスは溶解、摩擦破砕、分散、混合、濃縮、希釈、拡散をまとめて済ませている。 それも極めてシンプルな構造なのに。

 

● Report No040 / 0420

バイオ・ゲル

  生体の軟組織を作るコラーゲンなどは60%以上の水を持っています。生体ハイドロゲルでソフトコンタクトレンズなどは合成バイオゲルとも言えます。このゲルの中に薬物を充填し、放出制御して様々に利用する研究が拡がっています。必要な部位に必要なとき、必要なだけ投与できるDD(ドラッグデリバリーシステム)で、薬物放出のON−OFFを制御するため、熱・電流・超音波などの信号を送る方法があります。さて、代表的な最近の研究成果で見てみると、
(1) グルコース濃度に応答してインスリンを放出するマイクロカプセル(糖尿病)、
(2)胃酸のPHには反応せず、腸のPHで薬物放出する整腸剤、
(3)低温では収縮状態、高温では水素結合の解剤、
(4)膨潤による薬物放出型のアクリル系感温ゲル、
が挙げられます。
 人間・動物の主成分は水です。従って主役はハイドロ・ゲルと言えます。このハイドロ・ゲルをナノテクで追い込んで行けば、細胞の真の姿に迫れる感じがします。まずはDDSで長生きのための研究に期待しよう。

文房四宝のうち「墨」

  松ヤニを燃やして得られる松煙墨、菜種油を燃やして得られるのは油煙墨。前者は中国炭山や紀州産で知られやや青っぽい墨。後者は茶っぽい黒。カーボンでも単純に黒ではない。この二つの化学構造の違いが気になります。墨は得られる煤(煙の中にある黒い粒子)と膠(にかわ)を練り合わせて作られるのですが、これにも熟成がある、とか。作ってすぐには使えず、10年経ってまあまあのレベル、20年でそろそろ、30〜60年で働き盛りとか、100年もするとくたびれるとか、まるで人の寿命にそっくり。これはバイダーの膠の変質によるもの。ナノテク分野のカーボンナノチューブも火ではなくレーザーで得られるのですが、バインダー、キャリアー材が変質すると、機能発揮が出来なくなる。でも熟成なる要素は不要でしょう。墨には名画を通じて何百年いや何千年も活きているが、カーボンナノチューブを利用したモジュールはそんな長年使いますか? いっそ、ナノカーボンを膠で練って水彩画を描いてはいかがでしょうか?

 

● Report No039 / 0413

ナノサイズの乗物

  ナノ級寸法の部品の製作には、この世界は量子力学が律する領域なので、原子、分子を操作する技術が必要となる。それを通じて量子力学効果を発言して利用することが可能となる。その操作による、いわゆるボトムアップ技術として最近いくつか発表されている。
・走査型トンネル顕微鏡(STM)による
・自己組織化による
・三次元の拱択気相成長技術
拱択気相成長技術とは、3次元CADデータで制御された集束イオンビームをガスソース雰囲気でスキャンすると立体的ナノ構造体が出来る模様。 いよいよ映画「ミクロの決死隊」の乗り物が出来そうだ。でも乗る人間をナノサイズに縮小する技術はいつのことだろう。まずは人間に代わってナノビデオカメラを積み込みましょうか。

或るソフトリソグラフィー

  自己組立組織膜SAMを形成するための微細表面パターン構造を有するシリコーンゴムスタンプ(版)を得る簡便なプロセスが開発(ハーバード大学)されて注目されている。そのプロセスは
(1)所望のパターンをかCADにて得、紙にプリントする。
(2)そのプリントを35m/mフィルム或いはマイクロフィッシュに撮像して現像する。
(3)フォトレジストコートしたシリコンウェハーにマスクとしてあてがい、露光し、
  現像してパターンを得る。
(4)それをマスター型とし、PDMS(シリコーンゴム)にて反転型を得、
   それをスタンプとしSAM膜を形成する。
データによると20ミクロン線巾20ミクロン導体パターンと対比しても面白い。 所謂、貧乏人(設備投資が殆ど不要の意味)のためのハイテク・プロセスと言えましょう。また一つ、コロンブスの卵に触れました。

 

● Report No038 / 0406

歯の美白

 最近日本でも歯の漂白に関心が出ており、歯科医によるオフィス・ブリーチングが始まっている。米国では家庭で個人がする形のホームブリーチングが盛んになりつつあり、商品も出始めている。一日辺り何時間×何日の漂白作業の辛抱が必要なるも、美への願望からすればひたすら……と言うところ。過酸化尿素をペースト化した漂白剤が中心となり、最近は話題の光触媒を配合したものも発表されている。光あっての漂白作用ゆえ、美女が歯をむき出しての漂白図は、少々いただけません。この光も紫外線ではなく、口腔に安全な可視光となると、キーワードで見れば、徐放性・漂白剤ペースト・光触媒・可視光となり、ハイテク分野になりますね。副作用があっても効能があれば認められる医薬品と異なり、万人に安全かつ効果が出るものとなると真のハイテクの一種かも。

ステルス戦闘機

  レーダーに映らない航空機なんて、夢のような研究テーマでも案外実現してしまうものですね。そのR&Dの経緯が大変面白いのでちょっとご紹介。ロッキードの新機種開発チームが、1964年頃夢想中であった頃、それより9年も前のソ連の技術論文が米空軍翻訳部より米語で流されて、それに注目した次第。タイトルは“解析理論による鋭角面の電波の解析”なる40ページのモスクワ工科大学ユフィツェフ博士によるもの。それも100年も前の理学者マクスウェルが導き、それを独国の電磁物理学者ゾマーフェルドが改良した公式に基づいたもので、「この式によれば翼面と前縁レーダー波反射 率が正確に計算できるので、両方合わせれば飛行機全体の値を求めることができる」と。チームリーダーは早速レーダーと数学の天才で80才のビル・シュロダー氏を雇い入れ計算させてみた。当時のコンピューターは三次元までは処理能力が無く、苦労しながらステルス機117Aの原型設計に至った。それは「何千という三角形に分解し、各々のレーダー波反射率を計算して足し合わせれば、全体の反射率となる」との解釈に立脚しての事であった。1990年、ユフィツェフ博士がカリフォルニア大学の講演訪問時にこの事を聞かされたとき、同氏は特に驚いた様子もなく、「空力技術者では判り得ないことだから」とのコメントだったと。ブレークスルーの時のヒントは思はぬ所に転がっているものですね。

● Report No037 / 0330

ナノ・マシン

  ナノ・テクの研究開発推進を、経団連が音頭をとって取り組む程、その市場性は巨大で、2010年には273兆円に達するとか。ミクロンより微細のナノ領域では、物体をどんどん細かくしたものの把え方では難しいようで、むしろ原子・分子を積み重ねて造るものとした方が判り易いようだ。  ナノ・マシンは意外にも身近に存在するもので、それは「生物細胞」そのものである。 それには機械的働きがある故にマシンと呼べる。
  ・DNAは設計図。それを読みとるDNAポリメラーゼ
  ・基本部材はアミノ酸。機能部品はタンパク質
  ・部品の製造にはリポソーム。エネルギー工場はミトコンドリア
  ・燃料はATP。情報チャネルは脂質膜
  ・輸送はモーター蛋白複合体、
と、或る生化学者は分解した。自然の神秘的力こそ究極のナノ・マシンと知った。

放熱・冷却

 電気・電子機器や素子類の小型化に伴い、発生熱の処置が大きな技術課題となっており、それに対していろいろな技術方式が案出されている。冷却ファン、放熱フィン、熱伝導性シート、接着剤、グリースに至るまでの種々の商品は、いかに必要度が高いかを物語っている。
 中には熱媒体液を封じ込めた袋状のものもあり、液の対流によって冷却しようとするものや、液体状金属をポリマー中に分散させるもの、微細冷却チューブを配したもの銅の薄板状の函を接触させるもの。また、材質的にも、セラック(アルミナ、窒化アルミ、窒化珪素など)をスパッターリングで薄膜コート、熱伝導フィラーと軟質バインダーの組み合わせの工夫等々、材料・加工法・組み込み法のオンパレードの観がある。中でも新顔で注目はペルチェ素子、通信用半導体レーザーの冷却用に伸びている。WDM、DWDM用に最適のようで、前述の方式に比べて、動的?冷却と言えよう。それは吸熱発熱機能を持つ素子の利用で静的な使われ方でないからである。当然、小型の冷蔵庫にも適用できる点、単なる熱伝導性にのみに頼った材料とは根底から異なるものと理解される。このように機構も機能も全く異なったものが、同一市場に入ってくると「エイリアン」に見えて不気味だ。

 

● Report No036 / 0322

同じゴムでも効き目は変わる

  ゴム製の台座、ガスケット、防振ゴムなどの基体への帰着に際し、ゴム/基体の接触面の状態によって効き目が変わってしまう。単純にゴム成型品単独で測定した製品データと実際の取り付け状態での値に差が出てしまうことは以外に認識されていない。これは、ゴムを圧縮して行くと押しつぶされて、圧縮試験機の平行板との接触が増し、摩擦状態によってゴム試験片の形状が変わるため、圧縮応力/歪み(変形量)グラフで変形量を知ることが出来る。そこで種々の接触面状態を作り出して変形量を見ると、少ない順から記せば
(小)接着剤で貼り付け
   サンドペーパーがけ
 ↓ タルク打ち粉
   グラファイト打ち粉
(大)ペトロラタム塗布
シール機構部品に於けるCIPG、MIPGは片面圧着型に当たり、FIPG、IIPGは両面圧縮に当たるので変形量は・・・。ただし、ゴム成型品を粘着材で貼り付けたらどうなるでしょうか。

液体のシート?

 昭和30年代初頭、自動車レジンのオイルポンプから油洩れが相次ぎ、メーカーから呼び出しを受けた営業マン氏、状況をつぶさに観察し、品種を変更しての試行も失敗。窮余の一策、文具店で馬糞紙を購入、くだんのシール材をしみこませて鋏でカット。ようやくにして油洩れは止まった。開発開発部門では当人から出された提案を却下したが、社内の紆余曲折を経て、1年以上も経てやっとテーマとして取り上げた次第。後年1つの会社規模まで成長した。当の営業マンは単にシール性能のみならず、現場作業性に至るまで、直観的に感じて"液体のシート化"を提案していたのだった。 客のニーズ(希望、要求、苦言、提案…)に真摯に応えることが、ビジネスへの最短距離でありましょう。

 

● Report No035 / 0316

インテリジェント・コンクリート

  コンクリート・クライシスが叫ばれている昨今、中性化に伴う劣化を自律的に正そうとするコンクリート配合研究発表(東北大)があった。それは、アルカリを徐々に放出するマイクロカプセルを利用したものだった。考え方としてはこうだ。直径が100μ以下の生卵状の中身に、ある物質を一時的に閉じ込める。そして、殻の材質に細工を施して、徐々に作用が加わるようにする。時間の経過や効き目はどうだろうか… ――Drug Delivery Systems-のいろいろな技術が放出されつつある。 インテリジェント(プラスチック)成型で、何かアイデアはできませんか?

ダーク・キュア

 カチオン硬化系光重合レジンは、一度反応が惹起すると、暗所でも反応が継続する特質がある。それを利用して、エポキシなどの液状レジンに光エネルギーを照射し、その直後に金型キャビティーに注入すると、即硬化することになる。これは、別項で示した常温型射出成型の一種と言えるが、ダーク・キュアの方は、金型に光照射窓を設ける必要がないという利点がある。 硬化収縮率ゼロのカチオン硬化系スピロオルソカーボナート等を、このシステムに用いると、超精密光学成型物が得られる可能性もある。

 

● Report No034 / 0310

多角化と多様化

  企業のある部門がダメージを受けた時に、企業のバランスを復元し、安全を確保するためのリスクヘッジを多角化と言う。 例えば、製鉄会社が養鰻事業に参入するようなことだ。 M&Aの風土の乏しい日本では、素人がにわか勉強ではじめるせいか、成功例は少ない。 一方多様化とは、商品の使い方が多様になり使われ方が専門化する状況の下、いかに自社技術がもっとも活き、商品としての価値が上がるか、ということを軸に戦略を絞ることで、例えば工業用粘着テープの会社が徐放性薬剤型(DDS)貼付医薬品を開発するようなことだ。精密成型を得意としている弊社も、超精密成型を考えていくのも多様化に入るのだろうか。

産学技術総合研究所

 中央省庁の再編に伴い、旧工業技術院傘下の15研究所が一つの研究所に統合され、四月から独立行政法人となった。電子・情報、環境、バイオ、材料、エネルギー等の産業技術をカバーし、職員数3,200名の大研究機関になった。 組織的には三つのラインにより組み上げられる。
・戦略プロジェクトを推進する研究実施部門(23拠点)
  例)次世代半導体研究センター
    高分子基礎研究センター
・中〜長期戦略の実施に向けてボトムアップ的個人研究テーマの研究部門(22拠点)
  例)基礎素材研究部門
    分子細胞研究部門
    ナノテク研究部門
・将来の研究センター化につながる様々な新技術を育成するラボ組織
  例)次世代光工学研究ラボ
    グリーンプロセス研究ラボ
    ライフ・エレクトロニクス研究ラボ
真の産業技術立国を目指して官民一体となって、新聞、テレビのトップニュースで人災、天災を押しのけて「世界の○○」のような記事が多く出てくることを期待するところです。

 

● Report No033 / 0302

散逸構造

 聞き慣れない単語だが、専門書の定義によると、散逸構造とは熱平衡状態から遠く離れた非線型、非平衡解放系で、自己組織的に生ずる時空パターンで、その制御パラメータを増すと分岐現象として次々に質的に異なった散逸構造が現れるもの、と。何か良くわかりませんね。 でも、次の事例を見れば、その普遍性に理解が進めましょう。
・化合物の折出成長 ― 樹脂状模様
・液晶 ― 久留米絣の縞、江戸小紋、など
・ポリマー溶液 ― 水玉模様、空から見たゴルフ場など
・粘性水溶液 ― 雪の結晶、咲いた花状
・自己組織化材料 ― メゾスコピックパターン
・DNA ― メゾスコピックパターン
 研究者たちによれば、 マイクロアクチュエーター/マイクロポンプすなわち化学エネルギーで駆動する分子エンジンや超々デバイスのためのナノ級パターンにつながる学問のこと。空の雲のいろいろも、制御パラメータが変化した結果だな、とローレベルで納得。

フッソ系ポリマーの薄膜

 最近各方面でフッソ系ポリマーの薄膜研究が活発に進められている。テフロンを通じて知っているのは、耐熱、非粘着は身近な特質であるが、撥水撥油機能もなかなかのもので、物体の表面改質剤としての論文も続出している。幾つかをご紹介いたしますと
・蓮の葉の表面水滴が球状になって転がるのがヒントで、PTFE粉末と光触媒=酸化チタンを組み合わせてアンテナ等の着雪、氷結防止コート剤
・パーフルオルエーテル系ポリマーにSiを結合させてフッ化ポリエーテルポリマーは耐熱性が期待できる
・スチレン/インプレンの共重合体中の二重結合部にヒドロキシル基を導入し、続いてその個所に含F鎖を導入したラメラ構造型ポリマーで表面は-CF2、-CF3で覆われているもの。
・パープルオロ、ヘキサンジオール、ジメタクリレートのLB膜を重合させて得られる超薄膜
・含フッソ、オリゴマー型シランカップリング剤。モノマー型と異なり、-CH2-CH2がアンカーとなれるため、殆どのポリマー表面改質が可能となる。また、細工をすればFlip-Flop性を付与したりMARS耐性を付与することも可能となる。
そう言えば、今話題の燃料電池の心臓部に使われている高分子固体電解質(例:パーフルオロスルフォン膜高分子膜……Dupont社)もこの分野でした。