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● Report No192/ 05月25日

ファイトレメディエイション

 聞きなれない単語。どこで区切るのか。Phyto(植物)Remediation(汚染浄化・修復法)の連結語だと。小生が子供の頃、印旛沼にはヨシ原密生し、その浄化力により数メートルの水底の水草迄はっきり見えた程。聞くところ浜名湖でもヨシ原再現が進んでいるそうな。これらは重金属汚染土壌浄化(Hg,Pb,Cd,As 等)を植物が担っている為。一般に汚染土処理は 掘出し―運搬―化学/物理処理―埋戻し と、高コストゆえ、時間は少々かかっても植物の金属吸収―濃縮―貯留能力に委ねようという技術手法。もし、自宅の近所に汚染区域があったら掘出し作業のみでも神経質になる事でしょう。作業期間中の地域ストレスは大変なもの。この植物法によれば優しいのでよしよし。
 植物についても、ブタクサ、ナズナ、マリーゴールド等による開発が進行中とか。又、電力中央研究所では、遺伝子組み替えタバコ草によるCdの吸収の研究中。科学物理処理と異なりスピード性が低いので、研究者達は吸収し易いように金属のイオン化剤を研究しているとの事。でも、イオン化金属が雨水で流失し始めたらどうするのですか、心配。マイナスを出さずにプラスのみ発現するのが真の開発。更なる効果をと促進助剤(アクセレレーター/助触媒)が金属系だとしたら、笑えない話になってしまう。人類は自分が蒔いた種の刈取りに苦労している。

● Report No191/ 05月18日

バイオセンサー

 人はセンサーの塊。いや、センサーの鎧で武装していると言った方が良いか。生存競争(人と人との為ではなく、他の生物との関わりを指す)上、当然の事。今日のセンサー技術では、温度、形状認識、加速度、圧力、接触圧、音、触覚、光感知、色調、寸法等、本来、人間が有している要素のみならず、磁気、電波、ノイズ、不可視光、など新しい要素迄、鎧に装着している有様。それも単にセンス―感応するのみならず、その情報に基づいて行動迄プログラムし、敵を斃す迄のリアクション迄組み込んでしまう始末。生物機能として不十分・不足のところは、機器を付けてモードアップ。今やそのモードがずっと先を走り出したので追いかける人の方も忙しい。そこで楽に追いかける道具を、となって、その為のソフトと補助ハードが必要となり、果てしない。
 他生物との競争に完勝の人間は人と人との間にこれらセンサー道具を持ち込んで事態は複雑に。やがては、鷹の目―犬の鼻―蛇の舌―蝙蝠の耳―鯨の耐圧… 等に武装された怪物が出現か。こんな具合では疲れるので“逃げるが勝ち”の指示センサーが欲しくなる。


紋様


 紋は紋でも葵の御紋ではなく、指紋の様な筋の連続パターンについて眺める。宮崎日向海岸の鬼の洗濯板、砂漠の砂の風紋、国宝―尾形光琳の紅梅白梅の屏風絵の川の流れ、京都竜安寺の石庭の白石粒の熊手の紋様。か様に自然の中にも、又、人体にも有る如く、工業材料分野でも多々見当る。ハイテク分野に限っても、高分子電解質型燃料電池のバイポーラのガス流路パターンはもとより、ケミカルチップ(マイクロTAS)に於ける気液の流路形成パターン等、殊にバイオチップに至っては、どんな技法でパターン形成をするのか並べてみたら…、
  ・EBリソグラフィーとRIE ― 半導体チップの技法の利用は当然
  ・モールド       ― マイクロ成型(注型、射出等)も当然
  ・インプリンティング  ― スマートさ抜群
  ・マイクロスタンプ   ― 試験体そのものの直接的パターン化
  ・相分離形成      ― ブロックポリマーのマイクロドメイン形成
  ・電場勾配下で     ― [物質の種類×電場の種類×エネルギー量]だけ変化あり
  ・散逸構造による    ― 溶媒蒸発時に形成/さしづめ田圃のヒビ割れ
  ・LB膜による      ― 液体に浮いた湯葉を利用
  ・SAM膜による      ― 自己組織化膜の性質を利用
 いやはや、最先端分野だけあって手変え品変え百花繚乱。生き残るのは…?

● Report No190/ 05月11日

注目! イオン性液体

 今話題のカーボンナノチューブ(CNT)は、粉体では凝集力が強く、その分散技法の研究が多方面で進められているが、イオン性液体と混ぜると簡単に分散し、更にはゼリー化もさせてしまう現象が発見されている。この液体を常温溶融塩とも言い、不揮発性・不燃・耐熱・化学安定性・導電性等に優れる化学品。よって、ハイテク分野の材料としての利用研究も活発で、電気二重層キャパシター、燃料電池、色素増感太陽電池などには既に利用が始まっており、リチウム電池への利用開発も進んでいる。又、多様な構造・分子式の液体物質が得られるので、その個々の特性によって新しい技術の扉が開かれるであろう。一寸、その利用分野眺めしてみても、DDS・アクチュエーター・薄膜・ポリマー・光学材・触媒キャリア・磁性材・伝導材等々限りない。
 しかし乍ら、これらへの利用は固体(擬似固体含む)ベースが多いので、高分子材料との組合せが楽しみとなる。例えば、フルオロポリマーと混ぜてゲル型電解質ポリマーが得られる。このイオン性液体にビニル基を組み込めばその重合によって新しい機能を持つポリマーもできよう。又、その重合もRad-cureならば上述の利用分野への適用が一気に早まろう。ポリマー技術者としては、新材料キーワードとなる。数年後には、この種の物質に立脚したハイテク品が続出していることだろう。注目! 尚、米国では水の浄化にも使おうとしているとか。

 続いて、もう少し覗いてみました。2004年(3/30〜4/2)アメリカ化学会の春季大会がカリフォルニア州アナハイム市で開催され、多くの論文が発表されました。その中でポリマー/重合系に関わるものを拾ってみました。
  ・モノマー・オリゴマーの重合をイオン性液体中で行う研究
   (ラジカル重合系、リビング重合系、アルケンの重合 等)
  ・銀/カルベン系イオン性液体中でリビング重合用デリバリー能の研究
  ・ポリマーと組合せてイオン導電材の研究
  ・高温燃料電池用イミダゾール/ポリノルボルネン導電体の合成
  ・グリーン産業向けの重合方法の研究
  ・耐熱性・紫外線耐性で、
   かつ非マイグレーション型のフォスフォニウム基剤とするPVC用可塑剤 他多数
 多分、日本でも類似の方向・技法の研究が推進されているでしょう。このアナハイム市はディズニーランド、大リーグ球場等レジャー市なので研究者達はさぞかし楽しかったことでしょう。

● Report No189/ 04月27日

電気を生み出せ

 今の世、電気は不可欠。然らば発電を。その方法は?と、人は頭の限りを絞っている。ジャイアントシステムから豆粒型発電機に至るまで、子供の科学への動機付けには格好。1300℃以上のガス状作動流体がダクトを通過するだけで高効率(55〜60%)で電気が取り出せるMHD発電は巨大システム。中〜小規模でスマートな太陽光発電は色素増感太陽電池、シリコン系のSOIソーラーセル方式、酸化チタン光触媒によるもの等々華盛り。又、人の身体を効果的に利用しようとするのも必然の流れ。人は歩く―されば靴の踵に発電モジュールを仕込んでしまえと(スタンフォード研究所)。手のニギニギ動作で、いや手回しで(グルパワーR、ぐるでんR、アラジンパワーR)いや
ゼンマイ方式の方がと。一寸びっくりは服の重みで発電するハンガー(NEDO/SII他)。これに至っては、その機構はハイテクの極み。モバイル時代、補給電気をどうするかで今のところDMFC(直接メタノール型燃料電池)が先行しているが、日米で人の体温による発電方式の開発レース中。米国では3Voltを得た様だし、日本では2010年頃には電池不要の携帯が出現しようと予測。
 核融合や地球のマグマ熱の利用方式はこれからの様で、ナショプロ規模なるも企業規模のバイオマス発電・小型風力発電等楽しみも多い。こんな風に眺めていたが圧力差(例えば深海圧)発電なんてあるのでしょうか。“開発の熱気をエネルギー源とするマインド発電を”なんて駄洒落は停電の原因。


電気を取り出せ


 電気を生み出すのが発電、電気を取り出す元が電池、とすると学者から叱られそう。定義をどんどん崩して技術は展開していくので、あまり気にしない事にした。電池はいつも気になる分野。アルミ(一円玉)と銅(十円玉)を5個ずつ交互に重ね、間に酢を含ませたガーゼを挟んだ合計55円の簡易電池はいつ頃発表されたのか。この55円でどれ程の小学生が理系に進んだ事だろう。その子達がひょっとして今やスーパー電池研究に携わっているのだろうか。
  ・自動車用燃料電池(PEFC)は量産コスト目標に肉迫中。
   エンジン本体に当るスタック部の重量の大半を占めるバイポーラプレート(A-4版サイズ)の
   価格(200円/枚以下)と厚さ(1m/m以下)が射程内に。
  ・有機ラジカル電池は、Liイオン電池などの正極材をLi金属酸化物から
   有機ラジカル物質に替えて大電流の即時充放電を可としたもの(NEC)。
  ・バイオ燃料電池はバクテリア、或はバクテリアから分離の酵素によるバイオマス糖の
   酸化触媒反応による発電で、鉄(V)を還元する細菌が
   ブドウ糖分子→6・CO2+24ヶ電子 とするもの。
 PEFCもバイオFCも発電システムなのに銘柄は電池。定義とはどの角度から見てのことによるのでしょう。

● Report No188/ 04月20日

最近の面白薄っぺら2題

(1) イスラエルで開発されたパワーペーパー(R)なる代物。日本でも特許が公開になった(特開2003-279374)、シンプルな材料を使って作る文字通りシート電池(0.5mm厚)。環境汚染物質を含まないのでポイ捨て可。極めて量産性に富むので低コスト。その驚きは化粧品に使うとの政策に。プリコートした化粧薬剤のDDS効果と微弱電流刺激の相乗作用によるスーパー化粧品とか。又、他に非接触ICカードやスマート(インテリジェント)ラベル、果ては広範囲のノーベルティー商品にと、少々恐れ入りました。日本からは凸版印刷や安田信託が投資団に参加していました。
(2) オーストラリアで開発されたパワーフィルム(R)なる代物。ポリマーフィルムの上に太陽電池機能を薄層構成して発電能を持たせ、モノリシック集積素子などと複合化して、ワイヤレス電子モジュールや遠隔コントローラモジュール等が得られるもの。ペーパー状ゆえに、鋏で簡単にカットして粘着剤でどこにでも貼り付けられる、となるとこれは大変。(アイオワ・シンフィルム・テクノロジー社)

 さすれば、パワーペーパーで化粧し、腰の痛みにDDS電子パッチを貼り、フィルム太陽電池を組み込んだジャケットに連結したペーパーモバイルを操作しながら散歩するおばさん・・・ の出現は目前です。


遮熱


 文字通り熱の伝播を遮断すること。省エネ時代である現在、多孔質の断熱材とは異なる遮熱方式の塗料がヒートアイランド現象に立ち向かおうとしている。塗料ビヒクルに特殊なセラミックマイクロバルーンを配合すると、熱源の元凶たる赤外線(波長1.4〜3ミクロン)を透過させず、かつ一部は反射させてしまうもの。当然外壁や屋根などに塗るようになる。
 最近太陽光の照射による舗装路面の蓄熱と温度上昇を抑制しようと、塗料会社/舗装会社の連携で事業化が進行している。それも透過性、路面摩擦/すべり性、耐久性は勿論のこと、その施工性、コストに至るまでの要素をとらえてみると、高度の技術性が要求される次第。路面温度の10℃低温化が可能となり、日中の蓄積熱の夜間放出による熱帯夜を防ぐと。これについて臍曲り的な質問されました。遮熱舗装の上を日中歩いたらより暑く感じるのかな? いっそのこと路面を熱源とするヒートポンプシステムを構築したら? 打水が必要ないなんて蒸発潜熱の効果より大きいの? 又、黒く濡れた感じの打水の視覚効果は期待出来ないね・・・と。そこで気が付いた、足下ならぬ頭上の我家の屋根材はトタン板塗り替えにはこの種の塗料にしようと。

● Report No187/ 04月13日

廃熱利用

 かなり前に、製鉄高炉の炉頂部に発電機を装着したと聞き驚いた記憶があります。2010年の地球温暖化ガス排出規制として1990年の6%減レベルにとのCOP合意以降、発電所は言うに及ばず、コンピューター、都市廃熱(地下鉄、冷房、下水廃熱、ゴミ焼却場等)などのあらゆる熱々〜温々(ぬるぬる)に至るまでは当然のこと、冷々(ひやひや)とも組み合わせての技術開発が展開中。水の国の水力発電、全国温泉地帯の温熱はノーガス方式、でも絶対量が不足なのでこれに頼る訳にはいかない。よって、エンジンの逆サイクルとも言える方式の低温側から高温側に熱を移動させるヒートポンプ/熱交換器にスポットライトが当たる。家庭では、ヒートポンプ式エアコン・無線/赤外線でホームネットワークの組織による電力制御。今はまだコスト回収がやや難しい太陽電池システム―これとて光色素増感型がナノテクで進展すればのところまで来つつあると。
 これら技術開発を待つものの、本来はこうあるべきと年配の筆者は主張。“あまり便利なものを追いかけるのも腹八分目に、寒いときは厚着して暖房低めに、暑い時は除湿中心に、照明はスポット、近くへは歩くか自転車・・・。”こうするとGNPが心配になる人も出ましょう。ところで、膨大な量の炭酸ガスを発生させると言われる牛のゲップはどう処理したらよいでしょうか?


光硬化プロセスは昔もあった

 現代のハイテクもの造りには光硬化プロセスは不可欠。これなくして半導体チップも先端ディスプレーパネルも多層基板もありえない。
 ものを光で反応変化させる例は昔からあったものと本山卓彦博士は解説している。古代エジプトのミイラは包んだ布にアスファルトを塗り日光で固めたもの。桐油の日光硬化を利用した傘貼りは江戸時代の内職の華。米国では1940年頃からリソグラフィーの特許が出始め、日本では遅く1955年頃から基礎研究、1960年代以降に実用化と。その光エネルギーもミイラや傘は日光(可視光が主体)であったが、より短波長の紫外線を利用する為の重合開始剤の研究が進んだ。又、可視光より長波長の近赤外線で使えるものも出現しだした。光硬化は熱硬化に比べて速硬性/VOC問題の無さ等の利点にも増して、部分硬化できるという独特の特徴が今日のハイテク品を支えているのであろう。
 今までは殆どが薄もので済んでいたが、何ミリ〜何センチの厚ものを、それも光を透さない物体を光で固めようとの開発も急だ。電子線による厚ものCFRP構造物の製作はいよいよの段階か。ミイラの包布や傘布がEB硬化CFRPシートなんて、劇画の一コマになりそう。
 

● Report No186/ 04月08日

二律相反

 あっち立てればこっち立たずの事。防犯カメラの設置とプライバシーの保護なんて最近の世相例。税率と福祉の充実も政治のポイント。かように二律相反はあらゆる分野であらゆる局面で生じている。企業においても研究開発投資と決算利益の関係はいつも議論の的。白か黒かではなく、どう両立させるのか、どう折合うのかが智恵の出しどころ。大学の経営/授業料、地域防火/風の道、有明・八代海の海苔養殖/高潮防潮堤などの事例は新聞に賑っている。地球規模では発生炭酸ガスをどう処理するか。深海へ閉じ込める、メタールに変換する、光合成によって生物学的に固定等々。でも何れもそれに要するエネルギーが一方では新たなCo2ガスを直接・間接的に排出してしまう恐れ・・・。工業材料分野では両立し難いと思われている特性を両立させられれば、即利益生まれるとあって、その開発レースは熾烈であるが、見ていて楽しい。
  ・さっと剥がせる構造接着剤(電磁剥離)
  ・さっと外せるボルト/ナット(形状記憶ポリマーネジ)
  ・ある条件下で硬くなるフレキシブルシート
  ・硬い のに弾まないゴム
  ・伸びーるセラミック板
  ・透明なのに光を散乱させてしまうプラスチック
 際限なくある事例は際限なく楽しみを与えてくれる。


脅威の天然高分子

 紙や木綿はセルロースなる天然の高分子。水にも溶けず有機溶剤にも溶けず。でもアルカリで膨潤させてレーヨンの原料にもなるし、CAB(セルロース・アセテート・ブチレート)のような成型出来るプラスチックに変身もさせられる。又、分子構造分子量はセルロースとは違うが、海草から採れるアルギン酸や寒天は、食品以外に創傷被覆材としても知られている。更に、即栄養食品とは言えないが植物性多糖類にも注目。細胞構成の支柱物質として働くペクチン(ジャムに入れてゲル化)やコンニャク、キシログルカン等は酵素分解すれば単糖に変身。加水分解によって2分子以上の単糖を生ずる炭水化物を多糖類と言うなら、天然高分子は単糖の貯蔵物質とも言えるかな。地球人口の爆発的増加、耕作可能地の砂漠化の進行、工業化に伴う地下水の減少等々、食糧確保に先行き不透明の時代、天然高分子―特に大量に産するセルロース、それも木材加工の残材・端材・間伐材等を効率的に食品的炭水化物に酵素分解出来ないものかな。30年程前、石油から蛋白質への合成事業化が諸条件によって停止になった事がありましたが、天然セルロースと天然のスーパー酵素によるプロセスならば安全性は期待できると思いますが。多分これらのテーマも調べればどこかで密かに激しく研究されていることでしょう。そしてその先は牧草から動物蛋白を合成する人口の牛胃袋式化学システムですか。牛丼業界はスポンサーになりましょうか?

● Report No185/ 04月01日

電子線

 郵便包みに付着の炭素菌の消毒に、電子線照射装置が郵便局に設置され始めた。電子線は熱電子を真空中で加速して作られ、紫外線エネルギーの10〜100倍の電子ボルトを持つ為、物質を通過するとき、電離や励起作用を生じさせる。この効果を利用しているのがX線、電子顕微鏡、EB回折装置、ブラウン管など。この強エネルギーを重合・硬化反応に利用せんとの研究も盛ん。
 紫外線より遥かに強力エネルギーで深部まで到達するので、耐熱性、耐薬品性、界面接着力等にその特徴が表れるばかりでなく、そのレベルに至るまでのエネルギー効率がUV方式に比べて5〜10倍、加熱炉との比較に至っては50倍以上と省エネ時代向き。又、電子線照射は室温でも十分にその効果を出す、となると熱に弱い材料への加工にも向いている。主としてラジカル反応系のモノマー・オリゴマーの重合に用いられ、殊に紫外線・可視光・近赤外線硬化用重合開始剤の配合が不要となる点が、医薬分野の超クリーン性材料に特に適していよう。但し、それなりの装置(中〜大型)―初期投資が必要なること一寸要注意。CFRPの大型構造材料への展開が既に始まっているのか、これも一寸気になるところ。もっとも電子線直描レジストなんてものが以前から開発されているのだから、もっと電子線の利用が広がっていてもおかしくはないのですが…。


日本化学会 春期‘04年会のテーマから

 シンポジューム、多数の講演は勿論、5538件の研究発表の大大会。チノカーボン、デンドリマー、イオン性流体、新色素等は当然注目。これだけ物(ぶつ?)が有ると、さながらデパートのショッピング的。欲しいもの、見てみたいものは、どのフロアー、どのコーナー、どのショーケースにありやと。一覧リストを覗き、タイトルに惹かれて勝手抽出。勉強にもヒントになるのでとりあえずファイリング。そして非力ながらも想像してみよう、そして追って論文でも見ようと。約30テーマ抽出しましたがその中から10程を下記。(研究者省略)
  ・イオン性液体からなるソフトハイブリッド/カーボンナノクラスターと複合ゲル・プラスチック
  ・TiO2光触媒反応を利用するガラス基板上への銅配線の形成
  ・ナイロンカプセル内でのスチレンの重合反応
  ・フルオロアルキル基含有オリゴマー存在下における金属ナノ粒子の調整
  ・燃料電池用架橋PTFE膜から合成された高分子電解質膜の構造解析
  ・様々なシクロデキストリンによる環状エステル類の開環重合
  ・カチオン性モノマーの可逆的付加―開裂連鎖移動型リビングラジカル重合
  ・光重合により配合固定した液晶性ポリマーの構造とイオン伝導率
  ・カーボンナノチューブのポリマーへの添加効果に関する研究
  ・Dip-coating法により作成したナノポーラス酸化チタン膜の微構造

● Report No184/ 03月25日

フレーク

 物質の形状は色々―繊維状、粒状、粉状、フレーク状、ストランド状など。それぞれが独自のパフォーマンスを示すが一般にはフレーク状はあまり縁がない。せいぜい鰹のフレーク缶詰、コーンフレーク位か。ところが工業材料分野では極めて重要。ハイテク分野では不可欠材料となっている。フレークは言わば薄っぺら小片なので単独では働かないが、担体に寄生するとその働きや目を見張る程。
  ・モンモリロナイト粘土の結晶フレーク配合ナイロン―高強度成型物
  ・金・銀・銅などフレーク粉とバインダー樹脂    ―導電性プリント剤
  ・無電解メッキ被覆ガラスフレークと塗料ビヒクル ―光輝性塗料
  ・希土類元素コバルトのカソードフレーク     ―触媒
  ・軟磁性フェライトフレークとバインダー     ―電磁波シールド材、電波吸収材
  ・ガラスフレークとエポキシ           ―重防食塗料
 薄っぺら小片でも寸法的に(長さ/幅)対厚さの比、即ちアスペクト比によって、そのパフォーマンス度も変わりましょう。カーボンナノフレークなる物質も出現したとのこと。何に、どの様にして使えましょうか。多分、もういくつか答えが出つつあると思いますが…。


迷路

 一旦踏み込むとなかなか脱出できない、富士の樹海、アルジェリアのカスバ、世田谷区の住宅路地、アマゾンのジャングル。今日ではGPSが有れば問題なし。とは言っても、大阪梅田の地下街はGPSも役立たず。又、ホテルの火災時、煙充満の廊下をどう抜け出すか。パニックになり脳が真っ白に。とても判断どころではない。
 ところが、脳も無く神経系も無い原形質物質なる粘菌変形体―巨大なアメーバのような原生生物―が、設定された迷路の最短ルートを解いてしまうことが判り、情報処理能力は脳神経細胞のみが司る訳でなく、単細胞生物でも餌を求める本能的アメーバ運動をするものとの研究(理研・北大/Nature誌 2000年9月号)があり印象的。
 又、複雑な空間迷路として気になるのがマイクロ化学チップ。半導体チップ加工技術を利用して溝パターンを形成し、蓋をしてトンネルネット―さしずめタクラマカン砂漠の地下水路網(カレーズ)―を形成。入口から試料を流し込めば出口からは薬品が流れ出すもの。新薬を創り出すフラット型マイクロフラスコといったところ。将来は個人用特定薬を瞬時に合成産出出来るシステムとして威力を発揮するものと期待されている(北森KASTプロジェクトリーダー)。ひょとして、マイクロ化学チップを使って粘菌を創り出せたら―生命の神秘に1ミリ近づけるかも。

● Report No183/ 03月18日

色の道は何処へ

 あるホームページ、物質の不思議欄に、「なぜ?」が並んでいた。「朝日と夕日の色、リンゴの赤、濡れた石の黒はなぜ?。」色と光の微妙な関わり。
 古より染色と織物は文化そのもので、蘇芳(すおう)とか藍(あい)とか独特の色の表現語は、士農工商に亘って膾炙(かいしゃ)されている。現在は色(色素)については機能を主張する染料・顔料が主であり、まさに色華盛り。感熱色素、感圧色素、熱遮蔽顔料などはもとより、ディスプレー技術の発展と共に、より特徴的な材料も次々と上市されている。有機光導電変換トナー、マイクロカプセル型微細顔料、超微粒子発光材料、DVD・CD-R用の光記録色素などなど驚くばかり。
 又、カメレオン型の技法も出現し、10ナノ金粉・100Å(オングストローム)ニッケル紛によるプラズモン効果の色合い、4φデシテックス繊維の微粉の構造発色ナノ構造の光干渉による色調変化の利用塗料は、くるくる色変わる自動車も可とか。
 色気(色素)なくして色を出す。色の道は果てしない。


臭い

 「臭気」「香り」「匂い」は、受ける感じがそれぞれ微妙に違う。同じ嗅覚を刺激するのに、その扱いが違う。心地よさを齎すのが香りや匂い。嫌なやつが臭い。小生には「光りものの青魚の臭い」「山菜の香り」で、魚好きには叱られそう。臭気に関わる研究は多く、臭気源・発生メカニズム・脳の感知の作用機序・成分分析等々。昭和30年〜40年代の川崎や四日市の化学コンビナート地帯の臭い、大寺院の線香煙の香り、深山幽谷の匂いなど環境臭も大切と感じ、油臭い接着・シール剤に付香すれば、使用作業員が喜ぶ筈と思い、香料を滴下。その結果は好評。注文相次いだ思い出もあり。
 偶々、東大の佐藤先生が、“金属は何故臭う”の見解を出されておりましたので、一寸ご紹介。金属の表面は活性で、様々な物質と反応し易く、その結果微量の化学物質が生じ、それが原因かも。又、空気中の酸素・窒素の他、空気中に含まれる微量な気体の分解や結合の反応を促進して独特の化学物質が生成する、所謂金属の触媒作用もあろう…と。この表面を漂っている微小量の化学反応生成物を感知―知覚するのだから人間の鼻も凄いですね。もっとも犬には笑われそうですが…。 さすればこの漂いガスに着色出来れば、と欲が出てきた。

● Report No182/ 03月11日

西本願寺本堂修復

 過日NHK-TVで、この修復について中間報告的ドキュメントの放映があった。僅か45分。それは建築技術であり、工芸品修復であり、分析化学・材料力学であり、素材料探索活動であり、果ては人生哲学授受の場であり、と凝縮されており感動。
  ・何度かの大地震をも乗り越えた耐震構造の土壁の謎
  ・餅米ワラと江戸泥を6年醗酵させた後、
   団子状にして竹矢来にぶつけ、30センチ(1尺)厚の壁造り
  ・柱木の使い分け― 強靭な松、癖のない杉、腐らない檜
  ・屋根の軒の重みを支える自然湾曲木材の探索旅
  ・文字の読めない職人の為、木材に絵符号づけの心遣い
  ・木を叩き、縮めてから篏め込み、次いで水かけて膨張させ、強い締結力を得る知恵
 総合科学、芸術、宗教の場だけに印象一汐。昔の方々の智恵・努力に敬服。日本文化の素晴らしさを改めて実感。


導電回路一寸感

 導電回路の形成は、電線の配置を第一世代とするなら、プリント基板の方式はさしづめ第二世代か。もっとも電線を基板上に貼り付けなんて方式もあるから、これは1.5世代としておきましょう。回路の直接形成が理想なので、導電材(剤)をパターニングする方法が次々と発表されており、外野スタンドから眺めていても面白い。誰もが考えるインクジェット描画法も、ノズル孔径の超微細加工法と相俟って20〜25μ線幅が出来るようだし、ノーベル賞の白川博士の導電性高分子の自己組織化現象を利用して10ナノレベルの配線(東大/東工大、AIST)など、ナノサイズのトランジスタやダイオードとの組合せを思っただけでも、その利用範囲は広大。何でも第三世代なら高級かと言うと、案外第2.5世代位のところが実用的で、2〜2.5〜3世代のハイブリッドがタフなシステムかも知れない。
 電子回路一辺倒のところに、光の時代と共に電子/光子の組合せ方が浮上。光のイロハ本によると多重送信とか時分割などができるとか。光のマイクロ/ナノ複雑回路パターンなど必要ないのですかね。さしづめ電線は一夫一妻、光ファイバーは一夫多妻型なのですか。電線でも多妻型の技法はあるのでしょうか? 早速、知人のドクターに聞いてみよう。マイクロ導波路とナノ電子回路の同居モジュールなんてあるのですかね。果てしなく“?”の連続。

● Report No181/ 03月04日

異方化

 異方導電性接着材については一応知っていたところに、ポリマーが磁場によって異方化する記事(都立大)に触れ、「そんな事あるのだなぁ」と浅学の徒ゆえの驚き。磁場配向が起こるのはナノ級異方性物質が低粘度の時。即ち、溶融体と結晶の中間状態で磁場印加されると異方化すると。又、超高磁場に高分子を入れると磁気浮上が現れ、アクリルの油滴が浮上し乍ら眞球重合物が得られると。
 さればと更に眺めてみると、あるわあるわ、知らぬは我ばかり、だった。
  強磁場下で― 高強度カーボンファイバーの製造、DNA配向膜の作成、
         磁気アルキメデス効果によるプラスチック混合物の分別法(PATENT)、
         各種合成繊維の配向、位相板の製作、化学架橋ゲルの構造制御
 原子・分子の物性について知見の深い方々は、強磁場下ならばこれらの現象―そしてその特定利用は当然のこと、と。そうなると、何でも磁場を印加してみたくなる。磁場スウィッチングによる異方化のオンオフはあるのかな…。又々、気になる項目が増えそうだ。この“気になる”ということが所謂キーワードなのですね。


 磁場ばかりが異方化の技法ではあるまいと思い、場としての光や電場が気になり、覗いて見るとこれもやっぱり、あるわあるわ、でした。
  ・偏光レーザーによるマレイミド膜の異方配向化
  ・偏光×射光でアゾ色素の分子配列の異方性誘起
  ・電場において、フォトクロミックの光分極反転による光学記録媒体の作成
  ・交流電場中で光重合性液晶モノマーの異方性ポリマーフィルム化
  ・高分子プリカーサーを電場下で紫外線硬化して配向素子の作成     等々
 原子や分子という踊り子たちが、舞台を構成する仕掛け(照明、大道具、小道具、床板、回転/せり台など)と音(楽)によって一定のパターン(輪、列、塊、乱雑…)を形成するものだと把えると、予め特定の舞台を設けておいて素質不明の踊り子たちを次々と舞台に立たせてみれば、思わぬパフォーマンスを見せてくれるのではないだろうか。スターは必ずその中に居る筈。