ホンダは、新型燃料電池車FCXクラリティーの日米でのリース販売を発表(2007.11.16)。水素ガスの満タンで570km走行可と。少し足踏み状態に見えたFC車の今後に曙をさす兆しか。セパレータはステンレス系。素材開発業界での更なる進展はと眺めると、有望新顔が登場。とは言っても開発途上。なれど素質十分と見えるものいくつか・・・。
● Report No.342 / 02月09日
『燃料電池用セパレータ(一)』
別項「或る開発レース」(No.201 2004/8/10掲載)でPEFC(高分子電解質型燃料電池)のセパレータの開発について触れました。
とかく、燃料電池自動車が話題になりますが、小型軽量化で自動車ほど厳しいハードルが求められない業務用・家庭用の普及が先行しだした。しかし乍ら、未だ価格的には3〜400万円/台となるとコストパフォーマンスには程遠い。この数年間に劇的なコストダウンが普及への鍵。
構成する部材面から見れば、水素から電子を取り出すMEAシートは、最近のナノテク材料の駆使でより薄く、より少量のPt(プラチナ)触媒で着実に前進していると見える。そのMEA膜を両面から挟み込むセパレータの開発の足取りは遅々。このセパレータに求められる要件は、高導電性・高耐蝕性(耐酸性)・強度・ガス流と形成の為の加工性、そして何よりも総合コスト。即ち、MEAを挟んだセパレータのユニットのセルを3〜6百板積層するとなると、単に物理・化学的特性値のみならず、素材コストに加えてそれらの量産加工性が重要になってくる。
当初は武骨なカーボン板を機械加工で試作など為されたが、量産コスト性を勘案して開発者たちは(レジン+カーボン粉末)系か、金属板系にそれぞれ智力を尽くしての開発レース。前者は熱硬化性エポキシ・ビニルエステル等を筆頭に塩ビ(PVC)系も出現。後者は表面を特殊処理したステンレスが先行。殊に、将来大市場と目される自動車となると、かなりの薄型(1.6mm厚以下/セル)が求められると既存の素材では少々難しいと思われる。
コスト面から見れば、レジンなど汎用エンプラ、金属なら鉄(SS)・アルミ箔(Al)などを基材として何とかなれば・・・、と思っていたところに新開発情報(2007.12.12 DNP社)が入る。それは、表面にガス流路チャネルが形成されたアルミ板をコア材とする導電性電着コーティングしたもの。
● Report No.341 / 01月12日
『重合性オリゴマーの成型(二)』
その新規オリゴマーは、米国サイクリック社が開発、同社ドイツ工場で2005年から量産に入った環状ブチレンテレフタレート・オリゴマー(前駆体生成物)で、ブチレンテレフタレート(BT)の分子が2〜3個環状(リンク)構造を有し、有機金属(Sn、Ti)系触媒によって、常温で固型、120℃でペースト状、160℃でトロトロ(150cps)、190℃でしゃぶしゃぶ(20cps)で、180〜200℃領域で1分以内に重合し、かつ結晶化する、と言う。熱粘性履歴はTS用オリゴマー様、重合ポリマーはPBTと同様TP型線状構造。中温領域での低粘度性を利用すれば、フィラー高充填性を、布類への含浸性を、より低射出圧での成型、微細間隙への充填性、重合後は結晶化の為に脱型時の冷却措置の不要等々。前項(一)記述の各種成型方法に殆ど適用できる融通性。さすればその利用開発レースは既に中盤か? 事例としていくつか・・・
- 人工大理石(バリウムサルフェート・石英粉高充填)
- 電子部品用放熱板(窒化ボロン配合)
- 燃料電池セパレータ(カーボンナノチューブ配合による導電化)
- 放射線シールド材(ビスマス・タングステン配合)
- DVDディスク(PCへの添加による高転写性)
- ラピッドプロト(レーザーによる重合固化の3D化)
- ガソリンタンク(回転成形性)
- 車体パネル(複雑形状・大面積パネルへの適用RTM)
さあ、自分が関わっているもの造りテーマに組み込んでみたら・・・。
● Report No.340 / 12月22日
『重合性オリゴマーの成型(一)』
モノマー・オリゴマーの重合方式には、主として付加重合と縮合重合とがあり、前者には炭素二重結合を利用した熱可塑性ポリマー(TP)、後者には-NH2・-COOH・-OH基などの官能基2個以上を分子内に持っているものの反応で得られる熱硬化性ポリマー(TS)がある。更に、これらとは少々異なり、環状化合物の分子環が開くことで結合を生ずる開環重合ポリマーもある。
TPは直線状の分子構造ゆえに、熱による可逆的溶融状態が得られ、一方TSは官能基が3個以上の場合3次元の網状構造の巨大分子量ポリマーが得られ、それは熱による軟化・流動性を示さない。従ってTPは量産成形に適し、TSは物性に優れたものが得られる。
- 成型方式を眺めると、
TP-押出し、ブロー、射出、射出圧縮、カレンダー等
TS-圧縮、注型、トランスファー、含浸積層等
- 工程を見つめると
TP-重合終了のポリマーを熱による溶融→型への射出→冷却→脱型して
TS-重合前のオリゴマーを重合触媒・硬化剤と熱の作用によって硬化させて
- よって、
TPではトランスファー成型法によるFRPは難しいし、
TSでは出発が低分子量ゆえにカレンダーは難しい。
血液・薬剤・化学合成・バイオ液など、マイクロポンプのニーズは極めて高い。
● Report No.339 / 12月15日
『マイクロポンプ・マイクロバルヴ』
流体の移送のポンプも、マイクロ級サイズがハイテク分野で求められる様になると、関連情報に接する頻度が高くなる。かつて有機CVDのポリパラキシリレン(PPX)薄膜の利用で少々関わったので、現在でもキーワードに組み込んでいる状況。それはシリコンの表面の二酸化シリコンを、レジスト・エッチング・有機CVDの組み合わせで最終的に2μ厚PPX弁を作成する技法。本格的にMEMSデバイス時代に入り、化学やバイオ分析装置の極小化と高速化が求められ出し、ポンプ・インジェクター・分離器・バルヴ・リアクターの超小型化とそれらのモジュール化研究が急速に進んでいる。ポンプ情報のみ少しピックアップしてみると・・・
- 圧電素子とシート状のWバルヴを採用したマイクロポンプ(独国バルテルス社)
- 2mm以下口径ノズル内に取り付けられるPDMS製DDS用マイクロデバイス(立命館大)
- 反応手順を微細な流路として集積加工した樹脂チップとポンプは感染症の遺伝子検査システムに(コニカミノルタ)
- 圧電インクジェットヘッドへの流体供給用マイクロポンプはMEMSベースで(DIMATIX社)
- 2層のエラストマー薄膜を組合わせて作成されたバルヴとポンプシステム(USP7169314)(カリフォルニア工科大)
- 駆動部不要の流量調節パイプは注射針より細い径。ゆえに採血と投薬が同時に出来るもので、超音波印加による。(東海大)
- EHD(電気流体力学)現象を利用して、電圧印加のみで流れが生ずる構造の流路パターンを持つポンプは超小型で音/熱の発生なし。(東京電機大)
血液・薬剤・化学合成・バイオ液など、マイクロポンプのニーズは極めて高い。
● Report No.338 / 12月08日
『色を変える・色を読む』
昔も今も、鍛冶屋は鉄の色を読むのが焼入れ作業の命。近代溶鉱炉とてプロの眼力に頼ることもあると聞く。現在では示温クレヨンなるマーカーで素人でも表面温度が読める具合。マイクロカプセルに感温性液晶を封じ込めた感温シートや液体インクを封じ込めた加圧応力発色シートなどは普及して久しい。カメレオンの変色メカニズムの利用も、分子生物学・細胞学の分野で活発に。IT・ナノ時代、この種の先端技術は興味の的。ついつい視線を奪われた情報をいくつか抽出すれば・・・
- CD・DVDはレーザーで記録層の色素を分解したり、結晶状態を変化させたりして記録マークを作る。結晶が可逆的なればリライタブル(-RW)、紫外線でRW性が期待できる結晶物質「ジアリールエテン」が発見され、変形までするとか。(九大・大坂市立大)
- 蝶や熱帯魚の表皮の発色の仕組みを取り入れた環境可視化センシング素子。環境ホルモンに触れると発色する簡便迅速測定用。(名古屋工大)
- 電流を流すと(9V)発熱する液晶インクを染み込ませた布をコントロールすれば、色や柄を自由に変えられる服が可能。温度によって赤がオレンジ―緑―青と変化。(慶大)
- 金のナノ粒子はプラズモン共鳴によってルビー色。粒子径によって吸収バンドが変わるのを利用して凝集状態の変化による色調変化はDNAの分析に有効。赤→青、赤→紫は分子デバイスへの利用の可能性も。(大坂府立大)
- 青色顔料プルシアンブルーのナノ粒を利用して光の透過率を制御する調光ガラスは1.5V通電でオン/オフを。(AIST・山形大他)
- 圧力下で変色する有機材料で、紫外線下では青で圧力をかけると紫になる「テトラアフェニルピレン」なる物質。圧力センサー、感圧式の記録材料等に利用可。但し、圧力解放後、元の結晶状態に戻るには加熱の要有り。(東大・生技研)
- ナノサイズの酸化鉄粉で、磁場の調節によって粒子の配列が変化するため、光の透過・屈折をコントロール出来るのでFPDの分野での利用可能性大。(米国カリフォルニア大)
ナノ粒子の結晶構造を変える、透過光を詠む、粒径を変化させる等々で発生する新規の科学的現象がたとえ超微小・微細・瞬時であっても、その利用範囲は広大。将来、いつの間にかお世話になっていることでしょう。
● Report No.337 / 12月01日
『大気圧プラズマで処理すれば』
オーロラ・雷・太陽コロナなどは、物質が、原子が、正イオンと電子に分離した状態の見本。スーパーガスとも言えるものを利用すれば表面改質・化学反応・材料合成等多岐に亘って成果が見込めると、多方面で研究開発が展開されつつある。手元の情報BOXよりいくつかをつまんでみました。
- グロー放電の際に発生したプラズマを直接に、材料(ガラス・ポリイミドフィルム・フッソフィルムなど)に作用させる表面改質方法。(エアーウォーター)
- マイクロプラズマをパルス化した低温プラズマを用いて紙・PETなどの表面に金・プラチナ・半田などのパターニング。(AIST)
- 高周波の大気圧プラズマ利用の大面積のDLC(ダイアモンド・ライク・カーボン)の高速成膜で、立体もの(ファスナー・シリンジ・チューブステントなど)が可。(慶応大)
- パルスレーザー蒸着(PLD法)による酸化チタン透明電極膜。(東大)
- 近接型のプラズマCVDプロセス(100℃)による酸化亜鉛膜の形成。(長岡技術大)
- Filtered Cathodic Vaccume Arcによる金型へのカーボン膜(1.5nm)コート。(シンガポールNTI社)
- アモルファス・シリコンの高速成膜は太陽電池デバイスやエピタキシャルSi膜はロールtoロールへの道を拓くもの。(大坂大学21COEプログラム)
かつての高価かつ大型の装置が大気圧プラズマ方式によって小型化が可能となり、価格もそこそこになってくると、少量多種のデバイス類・機器類・材料類への展開も容易となり、それが又ベンチャー企業の誘発の要因ともなろう。
ここでふと感じました。プラズマ成膜とナノ粉の複合材はどうなっているのだろう・・・と。