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● Report No169
/ 11月27日

お辞儀する分子
  金 (Au) の表面のアルカンチオラートの自己組織化単分子層 (SAM) は、いわば直線状の分子鎖が金の表面からヤマアラシの針の毛の様に突き出している状態。 この特異な分子層をうまく利用出来る筈と、各方面で研究中。
 ・仲人 表面にトリアジンチオール分子膜を形成した金属部品を金型内にセットして、
     プラスチックの射出成型により界面接着力の強い複合部品が得られる。(岩手大)
 ・取巻き 4ナノφの金微子球には、πラジカルチオールが約100個、
      配位子の形で取り付いて化学吸着、逆コバンザメ型物質。
 ・お辞儀 金の表面のアルカンチオラートのヤマアラシ的毛はその密度と毛長を適切にし、
      その状態で電界を付加すると毛はお辞儀すると。
      その結果、親水性の毛先が隠れ、疎水性の胴が表面に現れることに。
      親水―疎水のスイッチ性が可能に。            (米国UCSB/MIT)

  金に取り付いたチオール、まだまだいろいろ機能を秘めているだけに目が離せない。 最敬礼すれば何か見つかるかな。

植物の再利用(2)
  何年か前までは、秋には落ち葉で芋・栗・銀杏などを庭先で焼いたもの。 昨今は安易に露天で燃やすことが出来ず、落葉焼きも今では叶わぬ夢と。 植物は、セルロースなどの天然高分子類のバイオマス資源。 その量たるや莫大。 しかし唯燃やしても、その体積に比して発生エネルギー量は少ない。 折角日光合成された高分子をもっと高度に利用できないものかと、多くの研究者がトライ中。 元来セルロースは加熱しても柔らかくならず、水にも溶けず、厄介な代物。
  ・ポリエチレングリコールをセルロースにまぶし、メカノケミカル反応を起こさせて
   一種のアロイ化し、成型可能に変性させる技術。                     (AIST)
  ・牧草を粉末化し、廃プラスチックと混ぜて牧柵用成型品を得る。      (北海道標茶町)
  ・砂糖黍 (サトウキビ) を原料とする乳酸ポリマーを得て、
   生分解性の自動車用内装材の開発。                       (トヨタ自動車)
  ・マイクロ波によるセルロースの分解   ・急速照射による活性炭化
                            ・熱分解液より糖液レボグルコサンの抽出
                            ・ガス化による一酸化炭素の発生
  思えば縄文・弥生時代から昭和20年代まで、バイオマス (生物資源) の有効利用は当たり前であった。 間伐材は割り箸に。 杉の樹皮は屋根葺き財。 稲藁 (いねわら) は、草鞋 (わらじ)・藁縄 (ロープ)・屋根材の下地層・蓆 (<読み:むしろ> カーペット)・包装材としての俵・叺 (かます) など。 それらの廃棄に至っては堆肥にと、余すところなくリサイクル。 お年寄りの経験・知恵が改めて見直される時が来た。

● Report No168/ 11月20日

海の恵み
  日本は海国、海に囲まれているから海の恵み――海産食品が豊富。 欧米では食さない種類まで工夫して食材としてしまう。 海苔は世界に冠たる食品。 海を畑にしての量産。 今や回転寿司と共に世界中へ。 わかめ、ひじき、昆布、その他海草などなど。 そんなところに深層水ブーム。 メンデレーエフ元素表の全ての元素を含有し、かつ、その微妙なバランスの成分比の液体。 生物発生の揺りかごであっただけに身体に悪かろう筈が無い。
  それでは、もっと何かがあろうと研究に拍車がかかる。 米国では、海草アミジグサから天然の抗生物質が発見されたり、光ファイバー状の針状有機物が海綿動物から抽出されたり (ベル研) 日本でも深海から様々の酵素が発見され、それらから人口甘味料やアトピー用皮膚薬が得られたりしている。 聞くところ、地球深部探査船 「ちきゅう号」 が ’05から、深海 4000メートルで 7000メートルの掘削して地殻の未知の生物を探すのだそうな。 深海の熱水噴出口の周囲に生息するバクテリアは噴出化学物質を餌とし、そのバクテリアを食す目の無い深海海老。 それは、人間の知る生物の細胞の作用機序とは異なるものかも。
  人は海から学ぶところは多い。 ひょっとして将来の人間生活の幸せの鍵はここにあるかも。

撥水
  100年近くにもなる自動車の歴史で、今日まで変わらない、いや、変えることが出来ないのがワイパー。 ガラス面への水滴きり装置。 最近ではフッ素系ポリマーの CF 基の高密度配列被膜による水滴飛ばしが出現するも、まだ不十分。 即ち、水滴の接触角がまだまだ大きい状態。 若し、蓮の葉の水滴 (水玉) コロコロになればと開発レース展開中。 [シラン+炭酸ガス] を CVD プロセスにより凸凹模様を形成したり、プラズマによるエッチング、表面フッ素化、表面重合方式など種々。 他方、化学吸着法やマイクロマシニングによる加工法もあったり、ゾルゲル剤によってナノサイズ状花弁を形成するのもある具合。 それもこれも、撥水加工は単にガラス表面のみならず、繊維・プラスチック・木材等への加工利用もあるから。
  衣類となると撥水はしたい、湿気を透過させたいと二律相反を追いかける。 又、省エネ時代、室温熱交換機のフィルター、燃料電池のガス拡散電極膜なども湿気コントロールで、その技術が要求されている。 こうなると基本物質 「水」 の捌き方が重要、なれど難しいものと知った。
  蓮の葉の表面構造、水上をスイスイ歩けるアメンボの脚先などを、模倣する手法をバイオミメティックと言う。 ポータブル顕微鏡があればウォーキングしながら開発ヒントが掴めるかも。

● Report No167/ 11月13日

磁化
  磁石は子供達にとって魅惑的なもの。 鉄釘をくっつけたり、砂をかき混ぜて砂鉄粒を拱別したり、プラスチックフィルムの上に乗せたパチンコ玉の坂登りさせたり・・・ と、科学への動機付けにはもってこいの玩具。
  理科の授業では、鉄は磁性物質と教えられるが、実はメンデレーエフの元素表の大部分の元素は磁性化の傾向があり、その強さは磁化率 (磁気の大きさ・強さ) で表され、固体・液体・気体であろうとも変わらないとのこと。 従って、磁化率の低い物質には強い磁場を与えれば、磁化するとのこと。 よって、磁化率の値に相当する磁場力を与えれば、特定物質の拱別が出来るそうな。 調べると、猛毒のダイオキシン・PCB の分離技術に利用されようとしているところでした。 こんな有機物・非金属材料でも磁化するのですね。 更には、カーボン繊維チョップ等でも配向 (方向揃えて整列) することが出来るのですね。 何か教育訓話みたい。 賢い子はすぐに感応するし、鈍い子も居る。 鈍い子もそれぞれ感応レベル値があり・・・、云々。
  科学現象と人の精神活動を対比関連させる事例は古今多々あり。 案外、分厚い事例集になりましょう。 人の場合は “磁化” でなく ”滋加” (勝手造語です) の方が、アナログ的で柔かさを感じますがいかが。

貧乏人のハイテク
 核の代りの化学兵器・細菌兵器。 これらは莫大な開発・生産費用を要しないし、その効果は時によっては核以上の効果をもたらす。 一方、それ自体は兵器ではないが、産業の米と称せられる超 LSI は、目も眩む様な配線回路のパターン設計、スーパークリーンの工場建屋、露光装置、エッチング蒸着装置類、切断・研削システム等々優に3桁億円の投資が要る。 そこで何とか¥をかけないでマイクロナノパターン形成が出来ないものかと探し出した。 その代表がインクジェット技術や LIGA プロセスなど。 前者は Sub-μ ラインの形成は無理なようだが、LSI と異なり、種々の材質のインク剤が利用出来るので、導電回路のみならず、絶縁材料・光学材料・バイオ物質に至るまで対象になってくる。 LIGA プロセスでは原型作成には高価な装置が要るものの、アウトソーシングで済ませられるし、Sub-μ 〜 nano レベルのパターンが可となるのみでなく、成型物(3D) も得られ、光学・バイオ・センサー等での利用が期待されている。(Au 電極付きケミカルチップ、先端にレンズ付き光ファイバーなど)
  加工プロセス技術を知れば、そこにニーズとしての用途があり、適切な材料を組み込めば、可能性が開かれるもの。 よって、3疊間ベンチャーによる新規チップ、4疊半ベンチャーによるスーパーセンサー素子などは手の届くところにあり、かな?

● Report No166/ 11月06日

低音メルト
 低温といっても 0℃ とか −30℃ とかのレベルではなく、室温〜150℃ 位の、熱々(あつあつ) ではない領域の話。 半田 (金属) でも、230℃ 以上。ガラスも 300℃ 以上。 ポリマーだけはいろいろと熱々。
  ここで、100℃ 以上で融ける (軟化し流動する) ようになったら、面白いと思いませんか。 それが、あるのですね。 あったのですね。 知らぬは私ばかりなりけりでしたか。 常温で液状の水銀 (Hg) は別格として、57℃ で流動化する金属があり放熱材 (熱伝導材) として利用されているのです。 ガラスも 200℃ 台で融けるグレードにポリマー (合成樹脂) を配合して射出成型出来る商品もありました。 ポリマーになると、一番身近にはワックス/蝋 (ロウ) がある。 最近この種の物質の融解熱/凝固熱の蓄熱・放熱現象を利用する熱エネルギー利用技術の研究が目に付く。
 数百℃ なんてエネルギーの利用は簡単だが、数十℃ のエネルギーを効率的に利用しようとするのはハイテク。 調べてみたら、錚々たる研究機関のテーマでした。 余すことなく使い切る、これがこれからのキーワードの1つかも。

生体用ナノ磁石
 磁性材料は磁場で独自の動きを示す。 その特質を利用して医療に利用しようとするのは当然。 ミクロン−ナノ級磁性材と、有機物としての生体との研究も盛ん。
  ・血液から、DNAや胚性幹細胞などの蛋白質抽出技術。
   即ち、特殊な抗体をつけた磁性粒子 (酸化鉄+ポリスチレン球) は、
   磁場下で拱択的に細胞を付着する。                (東大・UCLA)
  ・[蛋白質と磁性体] は磁場で蛋白質の脱着が出来る。
   この現象を利用して、MRI 診断に使える臨床検査薬や、
   磁力振動発熱による癌治療に使える7〜8ナノ径の粒子。   (東工大)
  ・ヘマタイト磁気微粒子を中心にして、
   周囲にリポソーム微粒子を付着せしめたコネクトリポソーム。 (AIST)
  ・ナノカーボン、フラーレンC60 は永久磁石能有すること発見。
   即ち、500K 迄磁化測定でヒステリシスを認めた。
   これにより、オールカーボン LSI の道拓くかと。         (ロシア・物理工業研究所)
  ・水溶性ビタミン系共重合高分子で鉄のナノ微粒子を包み、
   20℃ 以下で水溶液中で磁石に引き寄せ、
   30℃ 以上で分散するという分離回収機能。           (神戸大)

  鮭の生れ川戻りする能力、渡り鳥の地磁気感知能などはナノ磁石/生体細胞の作用機序ならん、と勝手1人合点。

● Report No165/ 10月30日

リ・ワーク
  「エコデザイン」 なる単語がある。 物を解体し易いように、設計段階からその考えを組み込んでおく思想。 いかにも新思想に見えるが、昔から日本には在った方式。 事例はいくらでも。 篏め込み木材と縄で組み立てられた茅葺き建屋、同じく祭りの山車、書物ですら紙縒綴じ(こよりとじ) を外せばバラバラに。 バラシ=リ・ワーク=やり直し が効くことは、本体を無駄にせずに済むということ。
  ・微細な加工工程を経てやっと実装したICチップを外せるような、
   リワーカブル型導電性接着剤
  ・分解し易い建材パネルには、膨張性マイクロバルーン入り接着剤
  ・アルミ箔をラミネートすれば、誘導電磁場で容易に分解
  ・特定湿度で結晶構造が変化して粘着性が消える粘着テープ
  あれやこれやあるものの出色はフィルム付カメラレンズ、所謂使い捨てカメラ。 “捨て” といっても分解・再組立てして再新品になるように当初から設計されている。 機能が日進月歩の IT 機器ではどうなんでしょうか。 自動車では、と次々気になりだした。 多分10年後にはリ・ワーク産業もかなりの規模となっておりましょう。

ユニークな磁性材研究
 磁石の挙動は、人にとって不思議で魅力あるもの。
  ・鉄に電磁振動を与えると、μスプローション効果によって、
   鉄の微細組織を形成させ高強度鋼を作る。
  ・太陽エネルギーを磁力エネルギーに変換する材料。
  ・有機磁性材 TCNE の Mn イオン付加物をフィルムに沈着せしめ、レーザー照射すると元の磁力の1.5倍になり、緑色レーザーを当てると 60%レベルに減る現象の発見。

  特に目についた研究は・・・ (個人的見方ですみません)
  ・微小磁石スピンを TMR 効果 (強磁性トンネル磁気抵抗効果) を利用して磁性記録式随時書込み読出しメモリーの可となるもの。 D−RAM ならぬ M−RAM か。 現在の電子式 LSI を磁石式 LSI に変えられるか、注目。

  磁性について素人の小生が磁石に惹かれるのは脳の中に人並みの生体磁石があるからでしょうか。

● Report No164/ 10月23日

仮の宿
 モノ作りの技法で、一時的にキャリヤ (担体) に乗せて後にキャリヤを外すやり方は多い。 ハイテク分野でも便利プロセスゆえに目につく。
  ・金属板上に半導体性単結晶を形成して回路を刻み込んだ後、
   ポリマーシートに接着して金属板を除去をすれば、
   安価なエレクトロニクス素子が転写プロセスで得られるもの。      (KASTプロジェクト)
  ・ガラス基板に形成した TFT をプラスチック基板に転写するに当たり、
   予め TFT 層に設けた仮保護シートを剥がして得られる FPD。     (ソニー)
  ・シリコン結晶表面にエッチングで形成した凹部は、
   その周囲を撥水加工しておけばポリスチレン微小球を詰めて面心立方格子を形成、
   次いで80℃加熱により PS 球を連結せしめ、
   この隙間にゲル状酸化チタンを流し込み加熱すれば PS は蒸発し、
   1 ミクロン孔あき酸化チタンの フォトニック結晶が得られる。       (北大)
 これら技法は言うなれば、達磨落しですか
              いや、登った後で梯子を外す、ですか
           いやいや、軒下貸して主家取られる、かも。
 この種の日本語句をいろいろ探せば、逆にそこから新プロセスアイデア出るかも・・・。

透気性
 千社札は千社参りの人が姓名・宿所を記した札を記念に社殿の柱などに貼った事からの名で、札を貼り付ける糊 (のり) は文字通り米粒を練ったもの。 その道の方曰く 「合成糊や粘着ワッペンでは貼られた木材の方が呼吸できないし、一方 糊は一定年月後に自然に剥がれ落ちるのが、又優しさなのよ」 と。 透気性は生物の基本機序。 皮膚の呼吸なんて今では常識。
 昔、湿った叺 (かます) に入れて保存した食材類・包帯・障子紙、皆、透気性が命。 そうなると当然の如く、ハイテク材料開発テーマに。 シリコーンの酸素富化膜を利用するエアコンやフリフレシュ用呼吸缶。 スーパー障子紙とも言える高透湿紙 (High-Efficiency-Paper) は空気中の水分を水蒸気のままで移動させることで透湿速度を高めたもの。 さすれば、紙ではなくセラミックではと、ガラス粉末と石灰をオートクレーブで処理し多孔質化して、自律的湿度調節機能を持つものも出現。 このセラミックシートで作った千社札は剥がれ落ちた後、生分解しないのが少々気になりますが・・・。 そうなると生分解性セラミックシートなんて研究が始まるかも。

● Report No163/ 10月16日

保護被膜
  商品には、顧客が使い始める迄、外観・機能を損なわないように、包装やカバー、被覆が施されている。 小型のものはラップ (包み込み) したり、段ボールに収納されたり、いろいろ。 自動車ともなると箱収納と言う訳にはいかない。 それも輸出/船積み運転/長期の野晒 (のざらし) /汚染大気などの要素から技術的には難しい問題。
  昔は、@ 有機溶剤に溶解させたワックスをスプレーし、納車時に有機溶剤を大量に用いて洗滌する方式。 と、なると手間大変になる為、A 温水 (スチームクリーニング) で除去できるタイプのワックスを開発となるも、B 流失ワックスの環境汚染の問題から弱粘着性広幅シートへと。 ワックス洗滌にはボイラー熱量・二酸化炭素排出・廃水処理の為の薬剤類等々、環境負荷が大。C 更には、セメント工場の熱源として使えるような不織布カバーへと変遷。
  かように車の一時保護材であっても時代の流れに巻き込まれて進化を迫られている。 この先どんなカバー材料が出現することでしょう。 企業人とて保護衣替えの心得が要りましょう。

穴 (孔) に何を詰めますか
 穴 (孔) が規則正しく整列しているウェル (井戸=凹み) アレーの模範は蜂の巣、所謂ハニカムホール、中には栄養価最高の蜂の子。 この様なアレーのミクロン、ナノサイズでは今や研究花盛り。
  ・メソポーラスシリカのナノ洞窟には触媒を
  ・ LIGA プロセスで得られた PMMA のウェルには光学ゲルを
  ・ガラス基板のウェルには DNA (増幅分析システム) を
  ・金表面にチオール化合物で形成されたウェルには分子認識材料を
  ・アルミ陽極酸化によるナノ細孔には高密度磁気記録媒体や金ドットなどの微小電極を
  こんな具合にミクロン/ナノ級ばかり羅列しているところに、1 ミリ穴アレーに火薬を詰めた微小ロケットアレーが出現。 これは、結晶シリコン基板に点火用ヒーター・配線・ノズルを設け、その上に固体燃料を詰めたガラスアレーを接合する構造で、宇宙科学研究所が衛星姿勢制御用ロケットを開発。 シート状ロケットとは新発想。

  ウェルアレーの材質、作り方はいろいろ。 又、それらのアレーに何を詰め込むか。 多くのベンチャーは見つめている技法。 医薬品はその最右翼。

● Report No162/ 10月09日

襖障子
  日本家屋は障子で仕切られている。 開閉可能だが固定型の襖障子、移動型の衝立(ついたて)障子、今流に言えばセパレーター。 言うなれば空間仕切り板。 リチウムイオン二次電池のセパレーターはイオン透過型。 障子紙が空気を通す如し。 燃料電池のセパレーターは導電性であるも、何も透過させない固い壁。
  固体高分子型燃料電池 (PEFC) は、今やハイテク開発競争の渦中。 それもセルの低価格化。 セルは MEA と挟み込む2枚のセパレーター。自動車一台当り何百枚も使うとなると大変。コスト、導電性、清浄性、強度、軽量性等、限りなく要求度が高い。 A4版サイズで百円台となると余程の奥の手、いや神の手が要る。 カーボン成型板の切削加工から発し、カーボン/レジン系の圧縮成型や射出成型、金属板にカーボンコートを施したり、金メッキしたり、まさに世界中でアノ手コノ手のレース中。 選手達は汗だく。 観客にすれば楽しいゲーム(失礼)。 その気楽さから無責任アイデア・・・ いや、夢を。
  「MEA をコアシートとして、両面にフレキシブル・セパレーター層を形成しロ−ル巻きスタック形成する R to R 生産方式」
  ロール端面処理は考えただけでも疲れます。

電磁波
  最近の電車内アナウンス 「優先席近くの方はケイタイの電源をお切り下さい」 と。 即ち、他人の心臓に心配りせよと。 ところが、電磁波を集中的に体内一ヶ所に当てて、ガン細胞を焼いてしまう医療技術もある。 又、過日の宮城地震では、電通大の大学院生が、前兆たる岩石破壊から発生する電磁波をキャッチ。 時期とマグニチュードレベルまで予測通報した (残念ながら当局に無視された)。 一方、文部科学省/国立環境研究所は、高圧電線の発する低周波電磁波により子供の脳腫瘍発症の危険性が上昇 (3倍以上の電磁波強度で10倍のリスク増大) するとの発表。 これだけの情報でも電磁波は一筋縄ではくくれない複雑モノと判る。
  悪役を振舞ったり、善役を演じたり、時には黒子で顔を見せずの探偵、多羅夫伴内―七つの顔を持つ男 並み。前述のケイタイ機も、自身からの発生電磁波で狂わないようにEMC/EMI 材/電磁波吸収材などの措置検討で、暴れん坊電磁波をなだめ、すかし、押え、閉じ込めてコントロールしている筈ですが、善役まで押えると 「角ためて牛殺す」 ことになりかねない。 別項で “光の手綱を捌く” に触れましたが、 “電磁波の手綱を捌く” のも劣らず重要です。

● Report No161/ 10月02日

キッチンはプロセス技術がいっぱい
 磁器、陶器の作り工程は [粘土+水] が材料となり、それは食品に似ている。 従って、成型方法 ― 調理法 は自ずと相似してくる。
    バッテラ鮨        加圧成型
    手打そば         グリーンシートと切断
    トコロテン         押出し成型
    プリン・羊羹       ホット注型
    おにぎり          静水 (手) 圧成型 (C I P)
    湯葉            LB 膜形成
    天ぷら           ホット浸漬塗装
    スモークサーモン    イオン注入
    チン!(電子レンジ)   Rad - Cure
    豆腐作り          チクソトロピー鋳込み
  さて、射出成型に相当するものはありますか? シュークリームは何に当たりますか? 手の込んだ和菓子となると、何かハイテクのヒントになるのでは? さあ、子達を台所に立たせよう。 それが動機となって科学者へと。 ひょっとして、調理人の道へ、となるかも。

光でコントロール
  光エネルギーが指揮者、導師、指導者たる立場で物質を変質させたり、それを又、元に戻したりの研究が盛んになってきたのでいくつか並べてみました。
  ・骨格にアゾベンゼンを導入したポリイミドは、
   光異性化による分子構造変化による形状変化を示し、
   レーザーで 90°曲がり、可視光で元に戻る。           (東京農工大)
  ・柔軟で高強度の不飽和カルボン酸重合型ポリマーのフィルムは、
   光照射によって構造変化し、
   分子吸着・透過・分離機能が発現したり止んだりする。       (AIST)
  ・可視光や近赤外線領域での、イオン対電荷移動錯体の反応による屈折率変化で、
   導波モード条件を変える光変調機能材料。              (JST)
  ・ゾルゲル法で得られたアルミナゲル膜を熱水浸漬して花弁状膜とし、
   光触媒物質の介在によって、光照射時に親水性化するもの。   (大阪府立大)
  ・[アゾベンゼン誘導体を含むアクリル/アクリルアミド/水性アクリルアミド] の
   コーティング膜は、表面張力 90°、UV照射すると 40°。
   即ち、濡れ性、吸湿性の光制御膜。                   (AIST)
  熱も無く、音も無く、瞬間の指揮棒 (光) の威力、改めて感服。

● Report No160/ 09月16日

メダル
  世界水泳で北島選手の金メダル、パリの世界陸上で末続選手の銅メダル、世界体操での鹿島選手の鉄棒・鞍馬の金メダル、団体での銅メダルなど、メダルは不思議にも貴金属。 貴だからこそメダルに相応しい材料なのか。 単に貴なのか、内にスーパーパワーが秘められているのではないか・・・。 (独)産業技術総合研究所 (AIST) の研究情報に金・銀・銅の3役揃い踏みと見た。
   金−坦体たる酸化物の上に付着のナノ級金粒子に、常温酸化の触媒活性があるとの発見。
      室温下で一酸化炭素、アミン、アルデヒド類を酸化すると。その用途は限りなく広い。
   銀−Na 超イオン導電体型構造のセラミックにEB照射すると、
      3ナノ径・ミクロン長さの銀ナノワイヤーが得られる。
      FPD 用電子放出源として、電子デバイスの配線材としての可能性。
   銅−銅イオンと脂質分子が層状に積み重なった繊維状分子集合体を鋳型に用いて、
      水溶液中で Cu イオンをヒドラジンを還元し、
      1〜3ナノ径で2〜5ナノ間隔の銅粒子一次元アレーが得られる。 ナノ電極に好適。
  これらの研究が国際的に評価を受け、メダル受賞となればと願うところ。 但し、その金属の色通りのメダル色とは限らない。 偶々、金の色が見た目やや美しいから、いや目方当りの値が高いから、金が1位なのか。 いつも金がトップとは限らない。 それが又、楽しい。

自己形成
  自己形成と言っても教育論に関わることではありません。 光の時代、ホームオプトロニクス (光と電子の混成システム) を目前に、文字通り光の通る路 ― 導波路の形成方法の新技術。 光ファイバーから来た光が次なる素子へ移る通路を作るのはかなり厄介。 繊細で気まぐれな光には、位置角度・波長・減衰などの要素への対応だけでも大変だ。 そこで、いっそのこと通る光に自分で路を作ってもらおうではないかと知恵者が考え開発が進められている。
  ・光硬化性のレジンの光による重合速度の違いによって、
   コア(光の通る芯路) とクラッド(さや部) を自己形成させようと。
   即ち、光配線の一端をレジンに浸し、UV などの励起光を放射すると、
   コア近傍の硬化物は屈折率が高くなった。   (AIST)
  ・とは言っても上記方法は長さ 1ミリ程度なので、
   UV 光をレーザー光にしてみると2.4ミリくらいまで伸びた。   (東海大)
  ・ならば二次元から三次元を得んと、
   ミラーを45°に平行配置して90°折り曲がり路を作ってみた。   (トヨタ中研)

  別項でご紹介の“自己組織化膜”も人手要らず。人手要らずのプロセス技術は他に色々ありましょう。並べて眺めてみたいですね。

● Report No159/ 09月10日

記憶(1)
  人は記憶する動物。 その記憶も忘却という渦に常に曝されている。 国会証人喚問で 「記憶にございません」 の記憶。 半導体王国であった日本の D−RAM素子 (半導体記憶デバイス) における没落は記憶に新しい。
  最近、記憶機能を持った螺子 (ネジ) が出現、と共に、身障者用の手に沿う形を憶えているプラスチック・スプーンも登場。 これらは三菱重工 (三菱化学ではない) が開発したポリウレタン系材料を利用したもので、前者は機器類のリサイクル分解に於いて、ネジ山が消えるので、容易にバラせると。
  形状記憶材料は、古くは米国に於いて合金系で開発され、当時ポリマー系のシール材に関わっていた小生は、ジェットエンジン燃料管の継手に米軍が採用と知るも、合金系では自己領域ではないと軽く決めつけ脇に置いてしまった失敗記憶は今も残っている。 名は重く (重工) とも脳の動きの軽やかなこと、拍手。 記憶に残ります。

自己組織化(2)
  ホワイトサイド氏 (ハーバード大学) によるソフトリソグラフィーの金膜上のアルカンチオールは、自己組織化によって単分子単層となってレジスト機能を発揮する。 即ち、金とチオールの自発的相互作用によって一定の秩序が生まれた結果。 トップダウン技術 (大→微) の行き詰まり後の、超微 (原子・分子など) → 微 のボトムアップ技術がナノテク。 その点、自発的作用は都合が良い。
  ・露光技術を使わず10nmのパターン
  ・UVと青色光制御でナノパターン
  ・単分子レジストとウェットプロセスによるナノパターン
  ・ポリカプロラクトン溶液の水滴鋳型としての多孔質膜パターン
  これらのナノパターン作成は超省エネで得られるだけに注目したいところ。 自己組織化膜は基体に良く くっつくので高密度・三次元が簡単な操作で得られるとなると、こんなうまい話は少ない。 ナノパターンのみならず、表面改質、センサー、メモリー、光素子などその応用は拡がるばかり。
  人間社会に絡めて眺めると純粋すぎるところが気になります。

● Report No158/ 09月04日

セラミックは粉
  セラミックは石だ、磁器だ、陶土だ、となると任意の形作りは厄介。 プラスチックと違って、液体にできなかったり、高温が必要だったりと。 そこで、プロセス融通性の高いポリマーや前駆体などと一時的に組み合わせて、常温〜中温で加工できる液状/パースト/パテ状のステップを設けるようになった。 そのセラミックも、構造用ともなると、微細な結晶構造制御が極めて重要であるだけに、ポリマー加工技術の概念が次々と組み込まれているように見える。
   ・重合性モノマーを融合してスラリーを得、硬化ゲルを形成するゲルキャスティング法。
   ・ワックス配合して、インクジェット法で吐出積層するコーティング法。
   ・粉体薄層上にパターン状にバインダーをスポットスプレーして逐次積層する立体印刷法。
   ・セラミック粉と光硬化性レジンを配合し、
    UVレーザービーム照射によって得られる薄層を逐次NC積上げる光RP法。

  このように眺めてみると、ポリマーの加工技術プロセスは、他に多くあるので、セラミック微粉末をその技法の中に配合(?)してみたらいかが。 セラミックとナノ金属粒層を交互積層したら異方性材料になるでしょうか? 光学特性はどうでしょうか?

粘土、それはハイテク材料
  モンモリロナイトと呼ばれる粘土の種類は、ナノ厚さのフレークの積層物から成っている。 何とかバラバラフレーク状態でプラスチックに配合できればと、各方面で研究。 そのフレークは100×100×1ナノレベル。 しかし、フレークの積層の固まり方は強固だ。 それを、化学的にやさしく、或は、物理的に厳しく処理して、分散混合物――ナノコンポジットが続々と上市されている。 草分けは、トヨタ中研によるナイロン6−粘土ハイブリッド(NCH)。 高強度化、低ガスバリア性などからアンダーフードプラスチック成形物や食品包装材などで注目されている。 これは化学的方法によるもの。 機械的にフレークの凝集の解砕には、弾性率が高く発生する溶融点以下の温度でポリマーを固層にし、高弾性率が発生する温度条件下に操作して固層剪断を行う混練分散方法を用いる、とのこと。
  ナノ級フレークは、言うなれば、超フィラーとも言えるものなので、接着剤に配合すれば接着力強度は30%以上アップしたり、ゾルーゲル材料と組み合わせて光機能性材料が得られたり、放射能緩衝人工バリア材としての可能性が追求されたりと、幅広い分野でその利用開発が進められているのを知った。 柿の木は、粘土質の土地が良いのよと、子供の頃に聞かされた。 何となくナノスラリーを植物に注いでみたくなった。