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● Report No.353 / 08月03日

『古典的のり』

子供の頃、竹を削った箆(へら)を使って飯粒を潰してそくひ (糊)を作らせられた。接着剤など無い田舎では障子貼りなどには不可欠のもの。名人は一粒づつ丁寧にこねるから、へら毎天井に投げつけてみると、へらのみ天井から静かに落ちて来る位ののりになる、と。一方、弁慶は力まかせに混ぜ練りするので、いつ迄も均質のりが出来上がらない、との親の口ぐせは今でも耳に残っている。当時、接着・接合に関しては、子供の遊び用とりもち、べっ甲品の修理には水と熱だけで接着、大事な湯呑みの欠け修理には金のかすがい…などに触れるも、長じて、シール・接着の世界に入ろうとは……。

合成樹脂の技術を基にした近代的接着剤が生まれる前は、当然のこと乍ら天然品を基材としたもの―アスファルト・にかわ(膠)・うるし・しっくい・でんぷんのりなどが古くより使われ、ノアの箱舟の木板もバベルの塔の煉瓦もアスファルトで接合されていた、と。日本でも縄文後期(3500年前)には鏃(やじり)の固定や土器の再現にはアスファルト。隅々、尊敬する接着剤研究者(故)本山卓彦博士からご昵懇を戴いておりましたので昔の接着剤の話を折に触れ伺うことができました。いくつかトピックス例を…

江戸時代

・かたつむりの肉をよく練り潰したペーストを。

・大豆を煮てつくる呉汁。

・海藻を煮てつくるふのり。

・うるしの木から漆(うるし)、うるしに木粉を加えたパテ剤。

・石灰粉+乾燥麩(ふ)粉+水=代用うるしのり。

・膠は皮の屑を煮て石灰水を加える。

今日とて、

・仏像の修理にはエポキシ樹脂の他に、麦漆も。

・ビールビンの王冠のコルクも、昭和55年頃迄、卵白で接着。

              

接着材ベンチャー入社の頃、初の開発製品が油臭いから佳い香を付けよ"とオーナーから指示あり、何もそこ迄する必要ありや、と思ったことが有った。この頃の為に古い糊を調べていたら、大正時代の「寓貴のり」のセールスポイントは芳香付き"とあった。事業家の考えることはどこか少々、一般の人々とはちがうものと……。  

● Report No.352 / 07月20日

『○○がなくとも出来ます』

もの造りの場で、あれが無ければ、いやこれも無ければ出来ないよ、の場面に遭遇すること多々。でも理想は、それが無くとも出来ますよ、の技術手法の発見にある。事例として、

・高温焼成プロセスが無くとも常温でセラミック(Al2O3など)被覆を可能にしたADコート。(AIST)

・構造用接着剤なしで、アルミ/エンプラのインサート成型を可能にした接合技法。(大成プラス)

・光が届かないカーボン繊維積層物を光で硬化させる方式。(三菱重工・スリーボンド)

・金型を冷却しなくとも成型物の取出しが出来るPBT用オリゴマー。(米国 サイクリック社)

・半田が無くとも微細導電回路の接合を瞬時に出来る異方導電性接着テープ。(日立化成他)

・複雑な立体形状物のフッ素ポリマー被覆を加熱することなしに可能にした有機CVD。(日本パリレン他)

・複雑な機械機構が無くとも自由に駆動させられる高分子アクチュエーター。(SRI、EAMEX他)

・複数枚のレンズの組合せの必要ない非球面レンズ。(コニカミノルタ他)

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 か様に眺めれば、際限なくこの種の事例を羅列できましょう。構造的にも加工プロセス的にもより単純化・平易化された方式が総合コスト的にも優れたものであろうし、それが多くの顧客を引きつけて商業的成功に結びつくのでしょう。「○○を無くしてみたら出来なか…」とのアプローチは問題(テーマ)設定に於いて重要要素になりましょう。

● Report No.351 / 06月22日

『組合せの妙(二)』

別項「秘伝の調合(No.99)」では調理タレや香水に、「ハイブリッド(No.113)」では機能材料に触れました。最近、素材ではゾルゲル・金属ガラス・導電ポリマー・新規性触媒等々に続々と出現しているので、それに併せるかのように新しい機能性材料が続出。個々に、最新のものとは言えないが、偶々印象に残っている複合材を羅列してみました。

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カーボンナノチューブ(CNT)/イオン性液体・・・極めて分散しがたいCNTはイオン性液体中では不思議に自然分散してゲルを形成。

カーボンナノチューブ(CNT)/イオン導電性ポリマー膜・・・PEFC用MEA。

アクリルオリゴマー/ゴム・・・相溶させれば海島構造のSGAに。

エポキシオリゴマー/ゴム ・・・相溶させれば海島構造のSGAに。

液状シリコンゴム/エンジニアリング・プラスチック…2色成型でシール層付射出成型品

陽極酸化アルミ/エンジニアリング・プラスチック…インサート成型による金属/プラスチックの構造接合部材

ハニカム/CF-エポキシプリプレグ…高強度ハニカムボード

金(Au)/チオール化合物…SAM(自己形成分子薄膜)型レジストプロセスで電極形成。

導電性粒子/バインダー…異方導電性フィルム状接着剤

ポリエチレングリコール(PEG)/シクロデキストリン(CD)…環動ゲル型ロタキサン

ポリアミド/モンモリロナイト インターカレーションによる高強度ナイロン

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 素材・材料の組合せによって、機能を発揮する部材に変容して「妙」と言えるとしたら、世の中、現存の材料は殆どが「妙」レベルでしょう。しかし乍ら、単に材料同士の相性だけでなく、融合化・複合化のための加工プロセスにも相当の工夫が肝要なること言を待たない。

● Report No.350 / 06月01日

『組合せの妙(一)』

生家は築百年以上の茅葺(かやぶき)民家。軒先を見上げれば1尺以上の厚さの屋根の断面層。最下層は稲わら、中層には細径の葦、上層には太径の茅。何れも印旛沼畔の産物。

外壁は稲わらのチョップと粘土を編み竹の骨格に盛り付け、仕上げは白漆喰。それは消石灰に麻糸屑を強化材とし、海草ふのりを粘結材とした白壁。土間はと見れば、土/石灰/苦汁(にがり)を混ぜて搗き固めたソフトなタッチの十和土(たたき)と称する床面。 部屋には、ぐっと固めた稲わらを芯材とし、 いぐさ で表面装した畳は極めつけ。ガラスに乏しい時代、採光の障子は、換気と湿度調節の機能を持つ優れもの。寒暑の差大きく、高湿度の日本の住居は先人たちの知恵の結晶。

今時の“地球に優しいもの”レベルで言えば、何れの材料も天然産もしくは一寸手を加えたもので、二酸化炭素を発生させず。又、廃棄時には全て生分解性型。何れもが3R(リデュース・リサイクル・リユース)のタイプ。何よりも驚きはリペアラブル。

今の時代、修理不能の物品の多いことよ…。ところが上述の建材・部材は修理可能。屋根材は燃料に・堆肥に。畳は表層のみ替えれば新品に。障子とて紙の貼り替えで。壁は容易にタッチアップ修理が可能。 骨格解体に至っても、大黒柱・梁木などはそのまま転用可能で森林資源の浪費の心配は不要。最たる見本的建材は西日本地区に多い焼板型外壁板。故意に木板を焼いて表面に炭化層を形成すれば、耐候性・耐風雪性・耐虫害性・耐日光性・断熱性等々、良いことずくめ。更には耐火性もあるとなると少々不思議。 昔の人の知恵に脱帽。